捨てられた妹-6【文スト】 (ページ11)

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｢………あの男には善悪というものが無かったんだ。教える人間が居なかったからね。私と同じだよ。昔の私は善悪の区別すらつかなかった。ここに来て、初めて善と悪の違いを理解した。理解出来たのは教えてくれる人間がいたから。｣

これはいい、これはだめ。彼女は確かに悪の人間だが、悪の中で育てば、何が善なのかだって理解できるし、それを教えられればすんなり受け入れられる。教える人間が、手本となる人間がそこに大勢居たからだ。

｢父親の経歴をね、調べたんだ。探偵社でPCを借りて。叔父の物も合わせて調べて見たけど、叔父の方がまだマシだった。あの男と叔父は本当の兄弟ではなく、腹違いの兄弟だった。男は浮気相手と、叔父は本命との子供でね。二人は同い歳で、誕生日が先だった神無月が兄とされていたんだよ。

神無月は私と同じように監禁されて、存在を無かったものとされていたらしい。おまけに頭も良くて口答えもしないから、親は神無月を売り飛ばした………そして数年後、神無月の方から叔父に連絡を取ったらしい。美味い話がある、と。これは叔父の日記に記されていた。過去に押収した証拠品の中に紛れ込んでいたものが、地下の倉庫に残っていたらしくてね。昨日三島くんに頼んで持ってこさせたものだよ。これをもっと早くに読んでいれば、神無月雅彦が死んでいない事を知れていたかもしれないね。｣

彼女がサイドテーブルの引き出しから出したのは、古びた日記帳。所々擦れていて読めなかったが、重要な部分は読めたのでなんの問題もない。

｢売られた先は経歴に乗ってた。奴隷の様に働かされるような場所だったらしいけど、詳しくは書かれていなかった。あの男がもし善悪の区別を付けられるような環境で育っていたら、私はここには居ない。否、そもそも産まれていないかもしれないね。あの男は母の異能目当てに交際し、私を産ませた。でもこの写真を見ると、実は結構母のことを愛していたのかなと思うよ。｣

母の肩を抱くその手は優しい。表情は柔らかく、正に幸せそうだ。母親の事をどう思って居たのか、愛していたのか、後悔したのか。聞けば良かった、今になってそう思う。然し、肝心の産みの父親はもう死んだ。義父に殺されて。元より彼女もその心算だったのだからなんの問題もないが、少し後悔はしている。あの時は、話を聞く余裕も、質問する余裕もなかった。