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服を着替え、組織に戻った彼女は仕事を始める前に地下へと下りた。その手には紙袋が下げられており、いつも通りの笑顔を浮かべて座敷牢への階段をおりていく。
「どうも御機嫌よう。御苦労様。」
座敷牢へと繋がる扉の前には見張りが立っており、彼女の姿が見えると同時に深々と頭を下げる。どこかで見た事のあるような気もするが、あまり見なれない顔。どうやら新人のようだ。
「君、座敷牢の見張りは初めてだよね?」
「はい。」
「退屈でしょうここは。」
「いえ……」
「30分ばかり遊んでいらっしゃい。私が許可する。」
「し、しかし……」
「そら、行った行った。」
彼の胸ポケットに壱万円札を押し込み、胸元を叩いた。見張り役の黒服は少し困った様子出会ったが、彼女には逆らわないが吉だ。黒服は頭を下げて地上への階段を昇っていく。
Aはそれを確認した後、座敷牢への扉を開ける。中に入ると、檻の中には小さな少年が座っていた。
「今日は久作。ご機嫌如何?」
「Aちゃん!」
夢野はパッと表情を明るくさせて檻の側まで寄ってきた。彼女は昔から、時折人目を忍んでは顔を見せに来てくれていた。座敷牢に入れられるよりも前から、彼女は彼の良き友であり、姉のような人だった。
「街に出かけたの。お土産の黒糖飴に洋菓子。」
「わぁ!ありがとう!いいなぁお外。」
「いつか行きましょう。楽しいところに連れて行ってあげるから。」
「うん!約束だよ!」
「うん、約束。」
小指を絡めると、「指切りげんまん!」と夢野が笑う。二人は異能の中でも忌み嫌われる精神操作の異能力の持ち主だった。そこから生まれる友情、絆というものがあるのかもしれない。少なくとも夢野はそう思っていたし、昔の彼女なら純粋な目で彼を見ることが出来た。
しかし、今はどうだろう。二人の仲の良さを知っていた森が彼女に行ったのだ。「Qを素直なまま従えられたら、苦労は無いのだけどね」と。命令という形で下された訳では無い。しかし、確かに森はそういうつもりで言ったに違いないのだ。今の彼女にとって、絆も親愛も、全てが偽りにしか見えていない。彼との友情もまた、きっといつか打ち切られるものだと心のどこかで思っていた。
「この後仕事なの。また遊びに来るね。」
「うん!!」
自分を信頼し、姉のように慕ってくれる彼の目が眩しくて、微かに残った良心が痛むような気がして、彼女は足早にその場を後にした。
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あっきーばか(プロフ) - 初コメ失礼します。志賀くんタイプで性癖です。嫁にください。この作品の推し志賀くんになりました!読んでいてとても面白い作品をありがとうございます‼️更新頑張ってくだせぇ (2022年3月27日 10時) (レス) @page20 id: 43feeb5241 (このIDを非表示/違反報告)
Sena(プロフ) - 妹系大好きです!太宰さんとすれ違っている感じの夢主ちゃん、気持ちわかる…!!別小説なんですが、おっかな妹とかすっごく好きで!!現在は更新停止になっているようですが、また再開するのを楽しみにしています!!あと!反社とJKも大好きです!応援してます!!! (2022年2月10日 18時) (レス) id: 61121e16fc (このIDを非表示/違反報告)
にゃーちゃん - 初コメ失礼します!夢主ちゃんかっくいいぃぃぃぃぃぃい!もはやこの作品での推し夢主ちゃんかもしれない、、、←更新楽しみにしてます! (2022年2月10日 2時) (レス) @page46 id: eaf6e1fdb7 (このIDを非表示/違反報告)
おひな(プロフ) - 花蛸花さんが文スト作品を書いてくれるなんて思ってもいませんでした!しかも太宰さん!嬉しいです!!😭✨更新頑張ってください!!! (2022年2月2日 11時) (レス) id: fb3fd917e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年2月2日 2時