闇医者-2【東リべ】 (ページ16)

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伊宮は施設で育った。まだ幼い頃に両親に捨てられて、その施設に預けられたのだ。それがしばらくして、喧嘩に明け暮れるようになった。

中学に上がる頃には、その中学を仕切るようになっていた。それなりに大きなその学校を仕切っていた彼にとって怖いものなどなかった。その時耳にした怪物の噂。前々からちらほらと噂は聞いていたが、今の自分なら絶対に勝てる。そんな根拠もない自信が湧いてきたのだ。

｢お前が噂の怪物かァ？｣

｢……あん？誰？｣

青く長い髪。頬にある大きな傷。長い足を伸ばして大きく開きタバコを吸う姿はなんとも絵になる。顔に傷はあるものの、それすらも気にならなかった。俳優やモデル顔負けのその容姿からは、怪物という名の異名を持つほどの実力があるとは到底想像もできない。

これならいける。伊宮の口角が小さく上がった。

｢俺とタイマンだァ！！！！｣

彼はしばらく彼を見つめたあと、携帯用の灰皿にタバコを押し潰した。

｢いーぜ。｣

そう言った彼はゆっくりと腰を上げた。自分よりもずっと背の高いA。筋肉もしっかりついていて体格もいい。彼は伊宮を見下ろすと小さく笑った。

｢その喧嘩、買った♡｣

顔は笑っているはずなのに、なぜだかぞわりと肌が粟立つ。いや、いける。絶対に勝てる。今まで自分よりデカい男をのしたことなんて何度もあった。

怪物をのして自分の伝説を作る。そう意気込んでいた。

｢はい、俺の勝ち。｣

最初の一撃から勝敗は決まっていた。腹に重くぶつかる拳に目の前がチカチカする。蹴られた右頬がジンジンと痛くて口の中が切れて血が出ていた。

完敗だった。ボロボロの状態で倒れる自分を見下ろすAには傷一つついていない。

｢ま、けた……｣

｢お前、俺よりもデケェやつ相手にした事あるからってイキってたろ。｣

｢……は、、？｣

図星をつかれた伊宮はぽかんと口を開けた。その様子に、Aはケタケタと笑う。

｢分かりやすいんだよお前〜いいか？喧嘩ってのは図体だけじゃねぇんだよ。頭、そして才能と実力。

でも、お前もそれなりに強いからこそ俺に挑んできたんだろ？｣

その勇気は認めてやるよ。そう言ってニカッと笑ったAに、あぁ、これは絶対に勝てないな。そう思った。何もかもが自分と違う。

＿＿俺もこんな人になれるだろうか。＿＿

その日から、伊宮はAの後ろをちょこちょことついて回るようになった。