第七十五話 ページ35
目を覚ましたら先程刺された川沿い。
『戻ってきた…名乗ったら駄目なの?』
先程と同じ様に太宰さんが河を流れてきて、敦君が回収し、私を認識する事無く探偵社に帰って行く。次は名乗らず助けだけを求めてみた。
『戻ってきた』
名乗っても助けを求めても、探偵社では無くマフィアに行ってみても、何もせず一日を過ぎるのを待ってもみても、死んでみても結果は同じ。何をしても意識が途絶えてこの場所に戻ってきてしまうのが判った。
おそらく、この世界の住人と関わると強制的に戻されて、一日過ぎようと変わらない。同じ日を永遠に繰り返しているんだろう。進み方も判らない。何日、何回戻ったかわからなくなった。
日に日に襲いかかる圧倒的孤独。
『もうやだ…触れれないし、存在を認識されれば戻っちゃうし。どうすれば明日になるかも判らないし…誰か助けてよ……乱歩さんを見に行こう』
最近はもっぱら此れが日課になってきた。日課と云っても全て同じ一日だけれど。乱歩さん、全く同じ行動しかしていないけど。何もせず今日を待つより乱歩さんを視界に入れていた方が有意義だ。
重い腰を上げ、何時もと同じご老人とすれ違い、同じ犬に寄ってこられ、飼い主さんが困っている。
普通なら今頃、頭が可笑しくなってるんだろうけど…正直、太宰さんの拷 問の方が辛かったから
何とか平静を保ってる。過去の経験がどんな事に役立つか判らないな。
公園の公衆電話が鳴った。
『え?』
今迄もこの公園の前をこの時間に通っていた。誤差があったとしてもたかが数分。
今尚鳴り続けているこの電話を聞き逃すのはありえない。
_この世界にきて初めて、同じ毎日に変化ができた。
変化への安心と恐怖。
其れでもこの気を逃せばまた
鬼が出るか蛇が出るか。一か八かの大勝負。
私は受話器を手に取った。
『もしもし』
受話器から聞こえてきた声は_
《嬢ちゃんか?》
『その声_お兄さん?』
四年前。よく太宰さんが私を拷 問していた頃、よく助けてくれていた人。
太宰さんの友と云い、私と同じく殺しをしなかった人。
優しく頭を撫でてくれた名前も知らない_
赤髪のお兄さんの声だった。
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作成日時:2020年1月4日 10時