第六十六話 ページ26
「大丈夫ですか?二人とも…」
『私はあまり記憶がないから…でも敦君は…』
「信じられません…あの院長先生が死んだなんて」
私自身、正直心の中がぐちゃぐちゃしてるけれど…敦君は私の比じゃないほどの思いが巡ってるんだろうな。私は十五年も前な上に記憶が曖昧で、敦君にとってはつい最近まで孤児院にいたもんだし。
自分の感情が追いついていないんだろう。無理した笑顔で意地を張り「辛いわけない」と自分に云い聞かせてるように見える…。
『二人とも、私ちょっとエボルブルスに行ってくるね。皆も彼の人の孤児院出身だし、報告と後何か情報持ってないか聞いてくる』
「判りました」
敦君は心配だけど何も知らないのと忘れてるのはわけが違うし、私は私であの写真を見て以降胸にどうにも云い難い感情がずっといて、怖くて泣きたくて頭がどうにかなりそうだ。
***
「彼の人の死んだんだ」
『偉くあっさり…。院長先生がこっちに来た理由に心当たりとかはない?』
「さぁ?俺らはないけど…これじゃない?」
礼朗に渡された雑誌には院長が握っていた記事も載っていて切れ端の部分が判った。
『これ…敦君。まさか敦君を捜して?』
「判らないけど…彼の人、敦に結構構ってたしね…」
「あれを構うって云うの?」
「まぁ…気にはかけてた…のか?」
「私なら一生怨むけどね‼」
何をされてたんだろう敦君…。だいたい孤児院がどんな感じかだったかもあまり覚えてないし…。
『孤児院ってどんな感じだったの?』
「クソ」
「独裁国家」
「地獄」
「牢獄?」
『…思い出したいのに思い出したくなくなるな』
「でも、出てからは彼の人が実は良い人ってのが判った。不器用が過ぎてただけの人って…まぁ、許す気はさらさらないけど」
そう云う割には皆、泣きそうな顔をするんだもんな…。益々院長先生が判らない。
貴方は良い人なんですか?悪い人なんですか?如何して私は貴方の事を考えるだけで泣きそうになり辛くなるんですか?
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作成日時:2020年1月4日 10時