第二十話 ページ23
急だが_俺の妹の話をしよう。
血の繋がりこそねえが、彼奴は確かに俺の妹だ。
彼奴に初めて会ったのは今から十五年前彼奴も俺も餓鬼だった時。
俺が俺になって数ヶ月たったあの日、彼奴は一人で道の端に座り込み月を見上げてた。治安が悪過ぎるあの街で餓鬼が一人、其れも女となれば運び屋の格好の餌にしか見えなかっただろう。
「手前…何してる」
『判らない』
「……家は」
『判らない』
其奴には記憶がなかった。今迄自分が何処に居たのか、誰と居たのか、自分が誰なのか。変な歌以外、何も覚えてなかった。だからこそ、親近感が湧いた。興味が湧いた。対して何も考えずに俺は其奴を拾った。
まだ安全な場所に移動し、其奴の持ってる物を調べた。まぁ、紙切れ一枚しか持ってなかったが。
その紙は薄汚れてて殆ど読めた物じゃなかったが収穫はあった。
紙切れは其奴の誕生日を祝う手紙だった。苗字があるが名前がなかったから最初は苗字だけでいいと思ったが、正直字が滲んでいて『新井』で合ってるか微妙だったからその辺に落ちてた雑誌から其奴に合いそうな名前を見つけてつけた。
「…A」
『?』
「今日から其れが手前の名だ。コレに書いてある字な」
雑誌を見せ名前の字を覚えさせる。其奴は、Aは雑誌を見て坦々と自分の名前を復唱していた。
Aを拾ってからは案外楽しかったのを覚えてる。俺を兄として慕い後ろをちょこちょこと追いかけて来る。日に日に表情も豊かになってきて口数も多くなった。
俺にとって生きる事が護る事になった。
だから、危険は全て避けてきた。其れが崩れたのは俺が十五、Aが十三の時。太宰の野郎に会ったのが運の尽き。危険から遠ざける筈が危険に身を置く事になった。
その中で、Aの危険は最小限にしようと今迄以上に護るという意識が高くなった。
彼奴の手は汚させない。もしもの時の為に自分の身を護れるようにする。元から彼奴は
仕事の数を増やされ、其れに比例し彼奴の目は死んでいった。気がついたら二年前、Aは俺の元から離れた。
初めは仕事が厭だったんだろうと思ってたが…違った。俺が俺らが彼奴を守りすぎた。其れだけだった。
「泣くな、A」
***
「Aちゃん素敵な帽子だねえ」
『はい、乱歩さんが貸してくれたんです』
「成る程。今の顔を隠すには丁度いい」
泣かないよ。でも今だけは_
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美影(プロフ) - すごく面白いです!言動が漫画、アニメその物で凄く引き込まれます!これからも更新頑張って下さい! (2019年12月14日 19時) (レス) id: 7e8f63469d (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2019年12月11日 11時