衣更真緒の妹は長袖マスク少女でした。 【あんスタ】

衣更のせいで。 ページ5

助けて誰か。お願い助けて。
もう、やだ。やだよ…もう衣更じゃなくてもいい。やめるから、無価値になってもいいから助けて…。

嘲笑が聞こえる。
遠ざかっていく足音。全身に走る鈍痛に湿った服。なんでどうしてこうなったの。

なんで、私だけがこうなるの？

____。

普通科とアイドル科は敷地ごと仕切られているから、小中学みたいなことは起こらないと思ってた。

これは、私の考えが杜撰だったせいなの？
まさか普通科の男女に学院の外で捕まるなんて思わないでしょ？

普通科の下校時間はとうに過ぎてるはずなのに。アイドル科の昇降口から、学院の外に出ると突然掴まれた私の髪の毛。

お兄ちゃんと似た色の髪の毛。

突然の痛みに抵抗する術すら思い出せずに、引きずられていった。
放り投げられた身体はコンクリートの壁にいとも容易くのめり込む。
痛みは声にすらならなかった。

5、6人の男女に囲まれた私はただ誓った。

声だけはあげない。衣更真緒の妹が何かやらかしたらお兄ちゃんの名前に傷がつくかもしれないから。
何も答えない。ただこの理不尽に耐えるのみ。

アイドルに囲まれて調子乗ってるんじゃないかとか。

衣更真緒の妹だからってプロデュース科に入学できた能無しだとか。

実はアイドルを取っかえひっかえする尻軽女なんだとか。

アイドルを利用するクソ女だとか。

俺の彼女を泣かせただとか。普通科をバカにしてるだとか。

逆恨みですか？嫉妬ですか？それともだだの憂さ晴らしですか？
なんも知らないくせに。知らないくせに。
私にも普通をちょうだいよ。
殴られ蹴られ、吐き出された罵詈雑言に、唾液。

やがてなにも声すらもあげない私に興味を尽かしたのか。
それともただスッキリしただけなのか。
奴らは帰っていった。

痛い。汚い。助けて。

慣れてるはずなんだ。こんなこと。衣更真緒の妹でも自分の力で友達を作ろうとしても、作れても、衣更真緒の妹だからみんな離れていく。

理不尽ないじめにもお兄ちゃんには知られちゃいけない。だからただ耐えてきた。
蔑む言葉にも暴力にも。

まだこの痛みは終わらないの？

ねぇ。衣更真緒の妹でいることは悪いことなの？私が衣更真緒の妹じゃダメなのかな。

そうだよね。

お兄ちゃんと私じゃ、あまりにも違いすぎる。

だからせめて。お兄ちゃんの名前に傷はつけられない。

痛む体を引きずって、立ち上がろうと…した。

言わないよ。→←衣更ってだけ。

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