衣更真緒の妹は長袖マスク少女でした。 【あんスタ】

お兄ちゃん。 ページ19

”お兄ちゃん”

彼女がそう最後に呼んでくれたのはいつだろう。
花の咲くような、暖かな笑顔と物腰で、いつも俺を迎えてくれたその声と表情。Aそのもの。

プロデュースの時は他人行儀に”衣更先輩”と呼ぶことだってある。

”お兄ちゃん”の声は、”ま〜くん”衣更”サリー””真緒”たくさんの物に塗り替えられて、薄くなっていく、やがてお兄ちゃんという声が薄れていくことの違和感すらも見えないようになった。

いつの間にかAは年中長袖にマスク。
その訳すらも、家族、兄であったからこそ、踏み込める場所にも、何も気づかず踏み込んでいかなかった。

Aだから大丈夫だと思っていた。

しっかりしてて、俺の後ろを着いてくる可愛い妹。

自分の目の前にある目もくらむような光に手を伸ばしたら、その影が差し込んだところにAがいることにすらも気づけなくなった。


妹と同じように脆くて不器用な兄は。

まだ。


まだ気づかない。


唯一無二の妹の傷に。


身内からも、外からもかけられる罵詈雑言。
兄の代わりに耐えていたのは誰なのか。
兄を本当に守っていたのは、両親でもない誰なのか。
まだ、まだまだまだ気づかない。


”バカ兄だね。あの綺羅星は。”

おはなしをしよう。→←先輩との約束。

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