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「あ〜生き返る! おつまみサイコーに合うしほんと天才、美味い」
「全部つまみ用で作ったわけじゃないけどな。でもまあ、喜んでもらえると作った甲斐があるよ」
ひたひたにぽん酢に浸した茄子を頬張りふにゃっと相貌を崩すAに三月は微笑む。その手に握られたグラスの中身は泡が乗ったビールである。Aが持っていた買い物袋から缶ビールを大量に取り出したときは二人ともぎょっとしたが、麦茶のお礼だと言われて断れるわけもなかった。
「だって本当に美味しい……一織も呑めたらよかったのに、呑もうよ」
「未成年に酒を勧めないでください。唐揚げは頂きます」
炊きたてのお米と唐揚げをもぐもぐと咀嚼する一織の視界はこの部屋を照らしている蛍光灯の灯りなんかよりもずっと輝いて見えた。紅潮している兄とAの頰のせいなのか、美味しい料理で気分が高まっているせいなのか、原因は分からなかったが。
金色の輝きがグラスの底でいっとうきらきらと揺らめいている。それが空気中に溶け出しているのか、ふわりと浮き足立った気持ちを抱えながら一織は楽しげな兄とAの様子を微笑ましく見守ることにした。
*
「呑みすぎないでくださいとあれほど言ったのに……」
一織はすうすうと眠りこけた三月に毛布をかけながら小言を呟く。Aが酒に強いという事実を忘れ、同じペース呑んでいたのだから潰れるのは当たり前ではあるのだが。自分の監督不足だとなげく一織だがAはカラカラと笑っていた。
手に缶ビールを持ち直接喉に流し込んでいた。ずっとコップに注いでいたのに、三月が眠りこけた途端この有様である。開けてしまった分なら仕方ないのかと思いつつ視線を向けていると首を傾げたAと目が合った。
「なーに、お酌してくれるの?」
「いえ、しませんけど」
「残念……ってあ、ちょっと!」
Aは新たなスルメの袋を開けながらまた缶ビールに手を伸ばしていたが、一織がその腕を掴んだ。兄が寝てしまった以上これ以上飲ませてはいけないだろうと制止したが、Aは頰を膨らませ、不満を表す。
「これで最後だから〜」
「さっきからずっとそう言ってませんでした?」
「うう……分かったって」
渋々缶から手を離した隙に一織は没収と言わんばかりに遠ざける。
チカチカと一瞬だけ照明が瞬いたような気がした。
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