ラブソングは届かない

08：罪は償っても罪【朔間凛月】 ページ8

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俺が好きだったあの子は、いつの間にか兄者の香りが染み付いていた。
好きな子からほかの男の匂いがするのに気づかない男なんてきっといない。
もちろん俺も例に漏れずそれにいち早く気づき、


「触んないで…っ！」


彼女が俺に伝えるよりはやく、俺は俺自身を守った。

＿＿そうじゃなきゃ、俺はもっときみにひどいことをすると思ったから。

そう言って、今までゼロだった距離は何千にも開き、
いつしか取り返しのつかないところまで溝が深まってしまった。

自業自得とは言え、彼女のいない日々に苦しんでいた俺に、ある転機が訪れた。
(兄者が、Aと別れた。……俺のために)
どこで知ったかは知らないけど、
俺がAのことを好きだと知った兄者が、彼女を振ったらしい。

これは好機だと思った俺は、ここぞとばかりに彼女に近づいた。


「辛気臭い顔しちゃって、顔色悪いけど、平気？」


ふられたところを慰めれば、俺を見てくれると思ったから。
兄者に似ている俺が優しくしてやれば、好きになってくれるんじゃないかと思ったから。
何より、あのときAに冷たくしたときの償いだった。

＿＿でも、罪ってものは例え償ったとしても罪なんだ。
そうわかったのは、雨に濡れた俺をみたAのあの一言。


『零さん…』


俺と仲良くしたのも、最初から兄者が目当てだったのかもしれない。
今だってもしかしたら兄者とまた戻れるかもって俺と一緒にいるのかも。

(最初っから朔間なんて名乗らなきゃ、こんなことにはならなかったのかな。)

例え俺越しに兄者を映していたとしても、俺はとやかく言える立場じゃない。
だってこれは、俺の消えることのない罪なのだから。



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