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「で、何？失恋って」
おんぶしたまま駅に向かって歩いてくれている海斗は、ため息混じりで質問してきた。
私が恋愛初心者だから、呆れているのかな。
『……話したくない』
「泣きついて来たくせに」
『パニックだったからだもん』
「びしょ濡れになってAをおんぶしている幼馴染には、聞く権利あると思うんだけど」
私が回した腕に、海斗の髪から水滴が落ちる。
この前みたいに風邪をひかせちゃいけないのに、私馬鹿だよね。
『それはごめんなさい』
「じゃあもう歩ける？」
『無理。そんな元気ないもん』
「……何があったのか知らないけど、まずAに好きな人が出来たって聞いてない」
拗ねたような声に、おんぶされていてもわかるくらい膨らんだ頬。
『私だって、さっきまで知らなかったもん』
「え？なにそれ」
『好きだって知った瞬間に失恋したっていうか。寧ろ失恋して好きって気付いたっていうか』
「鈍感だな」
『好きって何かわかってなかったから』
「この前聞いた時も好きな人いないって言ってたしな」
『うん』
話していると、いつもの駅が見えてきた。
そのまま駅まで行く道の最後の横断歩道を渡りきると、改札前に同じ学校の制服の男の子がいるのが見えた。
「……あれ？あそこに居んのって、ちゃか？」
『え？』
まだ遠くて 目を細めて見ると、確かにそこにいたのはさっきまで一緒にいた宮近くんだった。
「おーい、ちゃか！」
何も考えずに叫んだであろう海斗。
『馬鹿、やめて！呼ばないでよ』
そんな海斗から、片手を離してそのまま軽く頭を叩いた。
「痛！なんで！？」
私の好きな人が宮近くんだって気づいてないの？
この前宮近くんのことが好きか聞いてきたくせに。
私のことを鈍感って言ったけど、鈍感なのは海斗も一緒でしょ、なんて八つ当たり。
『いいから、早く改札通って！』
「いや、でも改札は流石に降りて歩いて通ってくれないと困る」
『じゃあ降りるから早く！』
「わかったって。今降ろすから」
じたばたと足を動かす私を、しゃがんで静かに降ろしてくれた。
そのまま海斗に荷物を渡して、私は宮近くんの横を走って通り過ぎて改札内に入った。
『海斗、早く来て！』
海斗に向かって叫んでいる私のこと、宮近くんは勿論気づくわけで。
そんな宮近くんは、どこか悲しげに私を見ているような気がした。
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作者名：愛生
| 作成日時：2024年1月21日 2時
