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『……宮近くんのなのに、壊しちゃった』
自分が最低なことをしたと気付いたのは、Aが力のない声で喋って、今にも泣きそうな顔をしたからだった。
骨が折れた傘を開いて帰るAにかける言葉が、見つからない。
好きなのに、俺が勝手に嫉妬して傷つけて……
でも、このままAと絶交とか嫌だし、謝らないと。
俺のせいで泣きそうになってるAを見たのは、小学生以来な気がする。
もう傷つけないって、決めたのに。
謝るためにAの家に向かってインターホンを押す。
出てきてくれたAのお母さんは一瞬驚いたような顔をしたあと優しく迎え入れてくれた。
お風呂からあがって部屋にいると話して、俺にタオルを渡してようとしたけど、申し訳なくて断った。
「海斗くん」
「はい」
「Aのこと、よろしくね」
何かを察したのか、Aのお母さんは俺に優しい声色で話す。
「俺、最低なこと言って傷つけちゃったんです」
「そっか。でもね？Aにとって海斗くんの変わりはいないから。これからも仲良くしてくれると嬉しいな」
「……すいません、ありがとうございます」
普通、Aを傷つけた俺の事を怒るんじゃないの？
もっと、きつく当たってきてもいいはずなのに優しいんだ。
会釈をして、Aの部屋に向かう。
部屋の前に立つと、啜り泣く声が聞こえてきた。
こんなに泣かせたの、久しぶりすぎてどうしたらいいかわからない。
誰かと電話をしているみたいで、Aが何かあった時に話してくれるのは俺だけだと思っていたから、寂しくなる。
俺以外にも、ちゃんと打ち明けられる人がいたんだって、安心感も少しあるけど。
泣いていたのが落ち着いたのか、控えめな笑い声が聞こえてくる。
話している内容までは聞こえないけど、少し落ち着いたみたいで良かった。
今なら、部屋に入ってもいいかな。
ノックをする為に腕をあげる。
『……私ね、宮近くんのこと』
勢いは止まらないまま、ドアにコンコンとノックをした。
聞こえた言葉も、声のトーンも、タイミングも、全部悪い。
宮近くんのこと、何？
ちゃかのことが好きとか、言うつもりだったんだろうか。
……俺、今ノックしてなかったら告白でも聞いていたのかな。
俺にだけ弱い所を見せてくれると思っていたけど、俺が何かしたら代わりになるのはちゃかなんだ。
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作者名：愛生
| 作成日時：2024年1月21日 2時
