検索窓
今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:13,213 hit

ページ1

「やぁ御機嫌よう、私の愛しい人」


がらりと音を立てて、医務室であるはずのこの部屋に血やら砂埃やらで汚れに汚れた男がずけずけと上がり込んできた。


「御機嫌よう太宰君」


何度汚れを落としてから来いと言っても彼にはどうやら私の言葉は通じないようなので早々に諦めた。


太宰治、最年少幹部と言われ時期首領になるであろう男にあまりしつこく注意などして命を落とすのはごめんである。




「今日はどこを怪我されたのですか」


「え?今日はどこも怪我してないよ?」




もう一度いうがここは医務室で、怪我人の応急処置をする場である。




「ではどうしてここに来られたんですか」




これは今までも何度もある事なので、それでも聞いて欲しそうににまにまと笑いながら太宰君がこちらを見てくるので聞かざるを得なかった。


答えが何かはもはや分かりきっていることで、私はため息をつく。




「どうしてって君に会いに来たのさ。愛しい君に」


「・・・・・・そうですか」


「もっと喜んでくれてもいいと思うのだけど、君はつれないなぁ」




医務室の椅子に勝手に座り込んだ太宰君はがったがったと前後に揺れながら「そんなとこがいいんだけどさっ」と何故か得意げであった。


つれない、と言われると何だか齟齬が生じる気もするけれど。私はただ単に早く出ていって欲しいから極力何も喋っていないわけで。


しかしそんなところが偶然にも彼の好奇心に引っかかってしまったらしい。本末転倒とはこの事だ。




「太宰君、私はそろそろ帰宅します。ここを閉めますので出ていってください」


「夜道は危ないから送って行くよ」


「いえ、常に背後から狙われている幹部様程では無いので大丈夫です」




幹部には護衛として部活が自宅までの送迎をする事になっているはずである。


そもそも一緒に帰った方が危ないと思う。




「君は本当につれないなぁ、こんなに毎日愛を伝えているのに」


「軽薄だからですよ、お先に失礼します」




まだ何か言いたそうにする太宰君を横目に医務室の鍵をかけ彼をそのまま放置して歩き出した。


太宰君は軽薄だ。ここで追いかけてくる様なことも無ければ私の視界に入る場所で普通に女性を口説きだす。






だから私は彼の事が嫌いだ。

◇→



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (38 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
80人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

柚子豆腐(プロフ) - みなづきさん» コメントありがとうございま!文章を褒めて頂けるのはほんとにめっちゃ嬉しいです!!より楽しんで頂けるよう頑張ります!! (2021年3月10日 4時) (レス) id: 63b1aa4dbe (このIDを非表示/違反報告)
みなづき(プロフ) - 死ぬほど好きです!!!文章が綺麗で、キャラクターとしても太宰がひたむきというか、原作のままなのがもう好きすぎて、、100億回くらい10点押したいです。続き楽しみに待ってます! (2021年3月9日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:柚子豆腐 | 作成日時:2021年2月25日 4時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。