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5話 ページ5

男と過ごす夜は存外心地のいいものだった。


しかしあんまりにも心地が良すぎるのも考えものだった。


だって、男はどう見ても表社会の人間には見えなかったからだ。




「また酒ばっか飲んでんのか。せめて何かつまめよ」


「うるさいなぁ、私の勝手でしょう」




男が私の日常に溶け込めば溶け込むほど、お酒にに逃げるようになった。


男はそれをいつも窘め、おつまみにするには勿体ないほどの手料理を振舞ってくれる。


会う約束はしない。男の気が向いた時に、ふらりと我が家へ足を運んでくるのだ。


空いてる時間が被るということは、きっと似たような仕事をしているに違いないと思うが、それを確かめる勇気なとわたしにはなかった。




「おいしい、ムカつく、おいしい」


「まだあるけど食うか」


「食べる」




食うのかよ、と呆れたように言いながらも、男はどこか嬉しそうに空いた皿に料理を盛り付ける。


男は、自分が来ない時私はろくに食事を取らないと分かっているのか、作り置きまで置いていくのだ。


男が帰った後、私はその料理を一人で食べる。


やめて欲しいのに、男はいくら言っても作り置きをやめることはなかった。




「・・・・餌付けのつもり?」


「ンなつもりねぇよ」


「じゃあどういうつもりなのかしら」


「分からねーだろうな」




意味が分からない。


餌付けで無ければなんなのか。


その意味を考えようとしたが、男は分からなくていいと言ったのだ。なら、分からなくていいのだろう。


私が男の事を深く追求することはなかった。


それは逆も然りで、男は私の名前すら聞かなかったし私も男の名前を聞こうとは思わなかった。






お互い名前も知らないまま、2度目の満月がきた。




「明日時間あるか」


「デートのお誘いかしら」


「あぁ、明日昼に迎えに来るからめかしこんどけよ」




どきりと、心臓が跳ねた。


冗談のつもりだったのに、さらりと肯定され固まってしまう。


男は今だ固まったままの私の頭を撫でると、初めて夜のうちに帰って行った。




お互いの名前も知らないまま、デートをする。


この、関係の名も感情の名も知らないまま。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 中原中也 , 文スト   
作品ジャンル:恋愛
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柚子豆腐(プロフ) - 天草嶋さん» コメントありがとうございます!最終話までお付き合いいただき本当に嬉しいです。番外編は書くか分かりませんが中也の話はまた書きたいと思ってますので今作以上にかっこいい中也をお届けできればと思います!新作もどうかよろしくお願いします。 (2019年8月6日 3時) (レス) id: 39b3b859c1 (このIDを非表示/違反報告)
天草嶋(プロフ) - 最終話が拝めて本当に満足です。今まで私が見たどの夢小説の中でも一番理想の中也像が描かれていて本当に大好きな作品でした。終わってしまったのは少し寂しいですが、また何か番外編などあれば是非読みたいです。新作も楽しみにしています!お疲れ様でした! (2019年8月5日 19時) (レス) id: be6bb92be5 (このIDを非表示/違反報告)
柚子豆腐(プロフ) - 謝花さん» コメントありがとうございます!こちらこそまじ感謝です!これからも頑張ります! (2019年7月20日 0時) (レス) id: 39b3b859c1 (このIDを非表示/違反報告)
柚子豆腐(プロフ) - 桜咲月菜さん» コメントありがとうございます!読んで下さっている読者様の方こそが神様でございます…でも、嬉しいです…… (2019年7月20日 0時) (レス) id: 39b3b859c1 (このIDを非表示/違反報告)
謝花 - 尊…い…まじ感謝です (2019年7月19日 14時) (レス) id: cfb76e4621 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:柚子豆腐 | 作成日時:2019年5月14日 5時

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