嗚呼、愛しい人よ【中原中也】

16話 ページ16

12年前、前ボスに拾われた。


嗄れた声に、曲がった腰。


私を拾った2年後にボスは死んだ。









銃弾の雨をすり抜ける。









生まれつき、動体視力と運動神経は桁外れに優れていた。


拾ってくれたボスに恩返しがしたくて、更に鍛えた。


銃を持った男10人に囲まれても、勝てるぐらいには強くなった。









武器は己の拳だけ。









彼は私に生き方を教えてくれた。


理性を教えてくれた。


私を人にしてくれた。


私に居場所をくれたのだ。









拳で、踵で、頭で、全身で。









死んでしまった彼への恩返しはこの組織を守ることだった。


いつの間にか、ぼろぼろになって、立ち行かなくなってしまった。


私では守れなかった。









もう、失うものはない。


何も、何も、何もない。


数少ない大切なもの全部、無くなってしまった。




全部、弱い私が悪いんだけど。









私の手が、首の骨を折る。


私の踵が、頭蓋骨を踏み砕く。


私の腕が、腹を貫く。


私の足が、肘が、膝が八つ当たりのように人を潰していくのだ。




もちろん無傷ではなかった。




銃弾が、もういくつも体を貫いた。




誰が言った。


｢バケモノ｣だと、言った。









貴方に、会いたい。


覚悟は、決めたはずだった。


死ぬのは怖くないはずだった。


怖い、怖い、怖い、怖くて恐ろしくて仕方がない。


貴方の笑顔が見たい。


もう一度私の事を綺麗だと言って欲しい。




もう、貴方に会えない事が何よりも恐ろしい。




死にたくない。


貴方に触れたい。




貴方と、生きたい。

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