悲しみはまだ近くにあるから【緑】 ページ38
悲しみはまだ近くにあるから【緑】
ドラマの話はとんとん進んで
当の本人は、けろっといつもどおり。
違和感ではないけど、気に掛かる。
あんまり人前でする話でもないから
久しぶりに、ご飯に誘ってみた。
「あのさ、大丈夫なん？」
「何が？」
「ドラマ。その、辛くなってへんのかなって」
「ああ、それのこと」
ことも無さげにAちゃんが呟く。
「あの、今は、俺たち一緒にやれてほんま楽しいけど、
でも、いくら遠くなっても、あのことは変わらへんやん。
俺やって全部知ってるなんて言えへんけど
その悲しかったり苦しかったりしたことを
なんて言うか……追体験させられる訳やんか。
直接自分で演じるパートやなくても、脚本とか色々あるし」
「ありがとう。心配してくれて」
「いや、みんな思うてると思うで。」
「優しいからな、みんな。」
「Aが決めたことやけど、
やっぱり、難しい問題やからさ」
「それは、そうやんな」
「俺は、やっぱりAはAのこと
一番大事にしてほしいし」
ようやく箸が止まってAちゃんと目が合う。
思ったより晴れやかな表情で少し、驚く。
「私とママは、前だけ見ようて言い続けて来てんな。
この20年近く、ずーっと。
だから、こういう機会もらって、
ようやく、その振り返る時期が来たんかなと思うたんよ。
一年くらい前から、話もらってて
何度も何度も、話し合って、やっぱり
お断りしよっかってなった時もあった。
でも私達、乗り越えてきた分、
それからは逃げられへんし、無くならへんし。
ママが私との時間で一番大切にしてたのが
『怖かったものを怖くないって、思えるように』
ってことやったから。
それに、あの時のことは頭の、別の所に入ってるから、
どっちかて言うと、そっちの方が辛くならんか心配やけど。
でも、うん、せやな………分かれへんけど……」
言い淀んで、少し、下を向いた。
「なに？」
「大倉くんがそうやって心配してくれるの
正直、ほんま嬉しい」
「心配くらいするわ」
………一般的な感覚としては、
過去の出来事になんねやろう。
Aにとっても、それは同じであってほしい。
忘れろなんて無理やけどAちゃんの言う通り
それこそ、今は、今。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年2月27日 11時
