【銀魂】己の行く道 途切れた糸【土方十四郎】

知っていた ページ45

…熱くて、柔らかい感触のそれは、前にも感じたことのある感覚で、ほんの一瞬だけ、晋助の顔が頭をよぎっていった。こんな時にも彼の面影を感じてしまう私は、なんてダメな奴なのだろうか。けれど、優しく、そっと触れあった唇は、やっぱり彼のものとは少し違っていて。そんな面影はすぐに跡形もなく消え去っていった。

…土方さんに、キスをされた。


そのことを理解するまで、少しの時間を有してしまった。何が起きたのか全然分からなくて、けれど目の前には土方さんの顔があって、今まで見たことがないくらい、至近距離にいて。うわ、この人意外と睫毛長い、とか気休めにそんな下らないことを思いつつ、私は目を丸くさせる。


…触れた唇も手も、確かな温度を持っていた。
…それはどうしてか、私の中に今まで、数秒前まで存在していた焦燥も、不安も、溶かしてしまうようで。唐突すぎることに驚愕しながらも、私は安心してしまっていた。

…少しして、ゆっくりゆっくりと離れていった、彼の熱を持った唇。漸く彼の顔をちゃんと見ることが叶った。けれど、私はただ呆然と土方さんの顔を見据えることしか出来ない。多分、口は半開きでちょっと間抜けすぎる顔をしているだろうけれど。そんな私の抜けた顔を笑うことはせず、土方さんも私を真っ直ぐに見つめている。


…いつもの、貫かれそうな視線とは少し違う、優しくて、でも何処か熱があって、何処までも真っ直ぐな目。私が、ずっと苦手としてきた目だ。

嘘をついても見抜かれて、見透かされてしまいそうなその目が、私は苦手だった。けれど今はどうしてだろうか、その真っ直ぐな視線が、私を見つめてくれる視線が、心地よくて。


…夜の闇の中、月明かりだけが照らすこの場所に、私と彼しか居ないこの場所に、沈黙が降りてくる。何か、何か言わないとと、私は口を開いて、なんとか声を絞り出そうとする。


「ひじかた、さ…」

土「これで、」


…私のそんな、漸く出た掠れた小さな声を遮り、土方さんは口にする。


土「これでもまだ、同情だって思うか？」

「…ッ」


…知っていた。本当は、気付いていた。けれど私は怖くて、やっぱり見ないフリをしていた。彼に、彼の気持ちに対して、絶対にしてはいけないことを。それすらも土方さんは、見抜いていて、私は言葉をなくしてしまう。


…分かっていた。土方さんが、同情なんかでそんなことを言う人じゃないってことくらい。「好きだ」なんて、彼がそんな感情で口にするはずがない。一度は、誰かを本気で愛したことのある彼が、そんなことをするはすがないのだ。

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