【銀魂】己の行く道 途切れた糸【土方十四郎】

優しい人 ページ43

Aside


…私の上司である彼は、土方さんは、ちょっと信じられないくらいに優しい人だ。思い返してみれば、私が真選組屯所の門の前で頼もうと叫んだあの日から、もう随分と時間が経っていて、それからの毎日で、私は一番土方さんの隣に居た。顔を合わせては言い合いを繰り広げて、睨み合っていがみ合って、それでも一番近くに居た。

…彼は時々理不尽で横暴で、マヨラーでニコチン中毒で、瞳孔かっ開いていて、腹が立った時も沢山あったけれど、それでも、私は知っている。土方さんはそれ以上に、優しさで溢れていることを。その優しさは、虫眼鏡で覗いて見ても中々見つけられないくらいの然り気無さだけれど、気を抜いたら、見逃してしまいそうになるけれど。それでも。


『お前は真選組だ』

『帰るぞ、A』


『悔しかったら、生きてみやがれ』

『ここが、お前の居場所だろ』


…それでも、私は彼から貰ったその言葉を、覚えている。彼が私にくれた優しさを、ちゃんと覚えている。見逃しかけても、時間をかけてそれを見つけたことだってあった。きっとそれを土方さん本人に言った所で、そんなことないと否定されてしまうのだろうけれど。でも、それでいい。それは私や、近藤さんや沖田くん、周囲に居る人がそれを分かっているなら、それに気付いているなら十分だ。


…誰かが土方さんの優しさを知っているのなら、それでいいのだ。

そして私はその中の一人で、彼に救われた一人だ。だから、知っているんだ。


土「好きだ」


…そう言いながら、私の手を優しく握った土方さん。彼は私をその切れ長の目で真っ直ぐに見据えており、その視線に、その言葉に私は、どうしていいのか分からなくなってしまう。


土「…お前が、好きだ」


…彼はそう、伝えてくれる。
…けれど私にはそれを、素直に受け止めることが出来なくて。その準備も何もないままに伝えられてしまったそれに、何て返せばいいのか、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。思考が絡まっていく。


「…土方さん、」

土「…なんだ」


…彼は、そう。本当に、優しすぎる人だから。


「……貴方は優しい人です」


…だから、きっと。


「慰めてくれてるんですよね」


…貴方はきっと、愛情と同情を、吐き違えてしまっているのだ。
絡まった私の思考は、そんな勝手な憶測を算出した。私は彼をまた、困らせているのだと。

土方さんの表情が、何かしらの感情に固まったのに気付いていながら、私は誤魔化すように笑っていた。

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