5，新幹線か1人暮らしか ページ5
昼休みも終わり、勉学に頭を戻す。
ヒーロー科は7限まであるために、6限までの普通科の彼女とは会えないが、同じ地元出身だから、会おうとすれば会えるだろう。
5限、6限、7限と時が経つ。
「環！帰ろうぜ！」
「ああ。」
体育祭の案内という字が書かれたプリントを鞄の中にしまって席を立った。
「そういえばこの前、やけに上の空だったけど何かあった？」
ミリオが靴を履きながら言う。
「……免許取るつもりも無いのにバイクを見に行こうって言われて。それで。」
「原付取るの？それとも中免かい？」
「中免？」
「2人乗りできる免許なんだよね。」
雄英の門を抜けて大きな坂を下る。
「バイクの免許の種類は原付、普通二輪、大型二輪の3つで、俺が言った中免は普通二輪の俗称なんだよね。」
「詳しいな。」
「前にちょこっとだけ調べてたんだ。バイク乗りたくてさ。」
雄英の最寄り駅から上りの電車に乗った。
偶然引き当てた新しめの車両のふかふかな椅子を堪能しながら会話を続ける。
「それで、バイクは見に行った？」
「あー、本田Aさんって覚えてるか？」
「ああ、確か普通科受けてたよね。覚えてるぜ。」
「その子と同じビーノってバイクを買うことになったんだ。父親同士が知り合いで、それ経由で。」
「ふーん…あの子バイク乗る系女子なんだ。いやでも確かにクールだよね、あの子。」
「感情の起伏が少ないというか、笑ったところを見たことが無いんだ。」
少し話しただけだが、本当に彼女は笑わない。
最初は地元のよしみということもあり馴れ馴れしく下の名前＋さん付けで呼んでいたけど、今は名字＋さん付け(娘)という感じで呼んでいる。
心の中でもだ。
窓の外の景色は静岡を抜けて神奈川へ。途中で温泉地を通るから温泉マークが沢山見える。
「でも美人で可愛いんだよね！告白とか結構されてるんだって！」
「うん、それに胸が……」
馬鹿か俺は。陰でこんな下世話な話なんてしたら何らかの力で祟られるに決まってる。
大きい、という言葉と共に、水筒に入ったお茶を飲む。
「平日休みなんて体育祭の振替休日しかないからな。夏休みまで先延ばしにはしたくないし、頑張って勉強するよ。」
「頑張れ環！もし取れたら原付デートできるぞ！」
「……ベツニ、ソンナ、メデハ、ミテナイ。」
「図星だろ？ちょっと気になってるんだろ？」
「……」
電車の窓から差し込む夕日よりも赤い俺の顔が、ガラスに反射して写っていた。
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作者名：雪羅 | 作成日時：2021年10月24日 22時
