光忠の誓い ページ5
◇
福島
Aは光忠という刀の美しさを姿に落としたようなそんな人だ。
兄らしく、光忠の兄弟をいつも慈しんでくれた。
その姿は兄というよりは、母のようで、小さい光忠の弟たちはAに懐いて仕方なかったものだ。
俺も、そんなAに引き寄せられた一振りだ。
Aは美しく気高い。
その姿に、戦だけでは無い光忠の生き方を感じた。
信長様と戦果を上げる実休と美術品として光忠の美しさを知らしめたA。
あの頃は光忠の天下だった。俺から見てもこの二人はいい組み合わせだったと思う。
でも、Aも一振りの刀。
天下人の傍でも臆することなく堂々と振る舞うのに、俺たち兄弟にだけ見せる儚さが、俺の心を掴んでやまなかった。
“私は、ずっと光忠なのだろうな。いつの世も、いつの時代も”
【光忠】の名がずっと君を苦しめてたのだろう。
光忠の象徴だった君は、誰よりもその重圧を背負っていたから。
兄弟での呼び名以外、号がなかったことも、それに拍車をかけた。
どんなにAを重宝した秀吉公であっても、AをAとして見てはくれなかった。
【光忠の美しい刀剣】、それがAを表す全てだった。
だから、俺がその名を呼ぶよ。
俺が、俺は、Aから目を離すことはないって誓えるから。
人の身を得て、少しわかった。この気持ちの正体が。
「薔薇三本の花言葉を知ってるか？」
＊
「ッ、……強いね」
返り血を拭って、刀身をしまう。
「だが、感じる。こいつら、力にどこかムラがある。恐らく、吸い取れる力に限界が来ているのだろう」
鬼丸国綱のその言葉に、俺は振り返り、鬼丸国綱を問いただす。
「どういうことだ、Aの身に、なにかあったってことか！」
「…瀬戸際だろうな。こいつらが力を吸い尽くすか、もしくは…」
その言葉を俺は遮った。
「させない！ 失うなんて、あってたまるか。Aを離さない、って俺は誓ったんだ…！」
握りしめた拳。
鬼丸国綱は、俺を見て、ため息をつくと、俺に言った。
「なら急ぐぞ。」
「ああ！全速力で向かおう！」
感じるAの力に目を瞑った。
この力を失わせなど、しない。
俺の身を犠牲にしても、必ず君を救い出す。
決意を新たに、先を急いだ。
◇
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作者名：みといそ | 作成日時：2024年2月6日 0時
