光忠の誇り ページ4
◇
燭台切
“兄さん！”
“よく来たな。…ふふ、光忠は可愛いな”
僕がまだ名もない光忠だった頃、たくさんの光忠の兄弟の中であなたはひときわ輝いていた。
光忠の中でも特に美しいかんばせ。夜の帳を写したような黒髪を無造作に束ねて、長船の装束に身を包んだあなたは、僕の憧れで、理解者だった。
あなたが髪に触れて、自分とお揃いだ、と言ってくれるのがとても嬉しかった。
夜を溶かしたようなその色にはなれる気がしなかったけれど、あなたと同じところがひとつでもあることがとても嬉しかった。
僕が燭台切の号を手にした時も、とても喜んでくれたっけ。
“お前らしい号だ。誇らしいよ”
そう言って微笑むあなたの顔は忘れられなかった。
天下人の側にいても見劣りすることの無い堂々とした立ち振る舞いは、長船派の憧れで、皇室に献上されることになったときいて、光忠の誇りだと胸が熱くなった。
あなたに近づきたくて、ここまで来た。
あなたの隣に立ちたくて。
いつもどこか寂しそうなあなたを、僕が守ってあげたくて。
＊
「燭台切、敵陣です」
「ああ。ごめん、少し考え事をしてた」
「力は感じますか？」
「もちろんだよ。…これは絶対にA兄さんだ。」
目の前にあるのは敵陣。
やはりここが本拠地だったらしく、すごい数の歴史修正主義者が犇めきあっている。
「先行します。続いてください。敵の布陣はここに向かうにつれ厳重になっているはずです」
部隊長である平野くんが地図を指さす。
平野くんは兄さんと同じく御物だったので、皇居の地理に詳しい。
指さしたのは何の変哲もない離れ。それが不思議で、僕は平野くんに尋ねた。
「本当にここにいるの？」
「地図的にここが一番守りが堅い造りになっています。この時代の地理には明るくありませんが、造りは僕の頃とあまり変わっていない」
平野くんは力強く答えた。
「きっとここにいます。」
「ありがとう、心強いね。早く救い出して、本丸に帰ろう」
待っててね、兄さん。
あなたをみすみす失わせたりなんてしない。
◇
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作者名：みといそ | 作成日時：2024年2月6日 0時
