長船 ページ19
◇
時は戻り、A光忠の保護が決まった日、
長船の刀剣の中には無意識の緊張した空気が流れていた。
名刀揃いの長船派でも数少ない御物。
豊臣秀吉の常差しで、天皇にも見初められたA光忠のことを知らない長船派はいない。
光忠兄弟を除いて、唯一A光忠に会ったことのある大般若は、A光忠を思い浮かべ、兄弟である小豆長光にそれを語った。
「Aさま…懐かしいなあ」
「うつくしいかたなときくよ」
「ああ。本当に綺麗な刀だよ」
戦いに使われることが多かったあの時代で、A光忠はその美しさから鑑賞刀としての使い道を見出された刀。
本人がどう思ったかはさておいて、戦うことでなく、魅せることで自身の価値を付けたA光忠は、ある意味革新的な刀だった。
大般若の頭の中にあるのは、聖母のようなA光忠の姿。
同じ長船じゃなかったら、きっと近寄ることすら許されなかっただろう。
「またお目にかかれるとは不思議なものだ。」
「すいーつはすきだろうか」
「どうだろうな。甘味でお近付きになれればいいが…」
頭に浮かぶのは光忠兄弟の様子。
A光忠がいるという手入れ部屋に毎日のように訪ねている姿。
織田の頃もA光忠のそばにはいつも光忠の刀剣がいた。
「(それに、あの目は…)」
不埒に近寄れば痛い目を見そうだ、と大般若はひとりこぼした。
「であえたのならきっときかいがある」
「ああ。あきらめるつもりは無いさ」
美術品としての幸せ、それは彼にとって本当に幸せだったのか。
いつも曇っていたあのかんばせが、花咲くように開いたなら
「(たまらないな)」
◇
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 181人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みといそ | 作成日時：2024年2月6日 0時
