兄弟 ページ16
◇
『兄弟、本当にありがとう。今こうしてあれるのは兄弟のおかげだ…。だから、改めてお礼を言いたかった』
『ありがとう』
頭を下げた無名。
実休が唇を噛み締めながら言う。
「君を失ったら、どうしようかと思った」
それを見て、福島と燭台切も瀕死で土気色の顔をした無名の姿を思い浮かべる。
「実休さんの言う通りだよ。兄さんがいなくなるなんて、僕は耐えられない」
燭台切も、震える声でそう言った。
『…私も、もう巡り合えることはないのかと思っていた』
「兄さん！」
燭台切が辛抱堪らなくなって、無名に抱きつく。
『ああ、燭台切…』
「兄さん、無事に治って、本当によかった」
燭台切の琥珀の瞳が溶けるように揺らぐ。
Aは燭台切をぎゅっと抱きしめ返し、昔そうしていたように、大きくなった背中をやさしくさすった。
「おいおい、抜けがけしないでくれ。俺だって、Aに触れたいよ」
『福島、』
「君が無事だってことを確認したいんだ。いいだろ？」
『もちろんだ。おいで』
抱きつかれている方と反対の腕を広げる。
福島はおもむろに近づいていき、無名を力強く抱き寄せた。
「君の鼓動が聞こえる…。それから俺の力も…」
『ああ。私も感じるよ、福島の力を。わけてくれて本当にありがとう』
福島は何度も何度も確認するように顔を擦り寄せると、満足げにため息をついた。
「ねえ、そしたら僕はどうしたらいいのかな？」
『実休も来るか？』
「…僕は早く君を独り占めしたい」
そう言いながらも、誘惑に負け、実休もAに近づいた。燭台切や福島は、実休を気づかい、Aからそっと離れた。
「…ずっと会いたかった。傷だらけの君を見て、君を失うんじゃないかって、すごく不安だった。」
『うん』
「おかえり、僕の片割れ」
実休はAを抱きしめた。
『ただいま帰った』
「ずっと待ってたんだよ だから」
そして実休は無名の肩を掴み、唇を重ねた。
『っ……、じっきゅう、』
「もう離れないで」
無名の白い肌が真っ赤に染った。
抱きついたままの実休に、後ろから野次が飛んだ。
「おーい、実休、俺たちがいるんだが」
◇
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作者名：みといそ | 作成日時：2024年2月6日 0時
