喜歓 ページ15
◇
「兄さん、泣かないで」
「…泣き顔も相変わらず綺麗だな、君は」
「目が熔けてしまうよ」
燭台切に涙を拭われながらも、Aの瞳からは雫が溢れて止まらなかった。
周りで見ていた刀や審神者も、ついつい貰い泣きしてしまいそうになった。
『…すまない。なぜだか、流れてきてしまって』
人の身は不思議だな、と笑うAに、兄弟も笑う。
「これから知っていこうね、兄さん」
「これからは俺たちがそばにいるからな」
『その事だけど、私はこれからここに置いてもらえるのか…？』
「もちろんだよ。ね、主」
はなしを振られた主は頷く。
「ああ。名乗るのが遅くなってすまない。俺がこの本丸の主だ。A光忠にはぜひ、この本丸にいて、俺の力になってほしい」
『あなたが、主か。こちらこそ、挨拶もなしにすまない。兄弟がお世話になっている。』
Aはできる限り居住まいを治し、主に向き直って言った。
『…長船派が祖、光忠が一振り。光忠の銘がその証拠だ。私には号がないゆえ、兄弟の呼び名でぜひ呼んでくれ。』
誠心誠意お仕えする、とAは頭を下げたが、その拍子に立ちくらみがしたのか、そのまま崩れ落ちてしまった。
『ッ……、すまない、身体が本調子ではないようだ』
「そりゃそうだ。ここに運ばれてきた時は命があるのが奇跡なくらい衰弱していた。とりあえずは身体を治せ」
『ああ。迷惑をかける』
「迷惑なんて思わないさ。とりあえず、身体に触るといけないから俺たちは一旦去ろう」
主の気遣いにAは感謝をした。
野次馬の刀も去り、部屋には光忠の刀剣のみになった。
◇
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作者名：みといそ | 作成日時：2024年2月6日 0時
