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「おーい、敦君?」

太宰治はボケーっと書類を持ち立っている中島の目の前で手を振る。


「え、あ、太宰さん?!」

中島は太宰が目の前にいる事自体に驚いたのか声を荒げた。


「うわ、如何したの敦君。考え事?」

太宰は訊く。


「まぁ、そんな処ですかね」

中島は数週間前の事を考えていた。



太宰に出逢う四日前に消えたAの事を。



「太宰さん」

中島は自分の頭だけでは無理だと判断したのか上司に助けを求めた。



「『またね』って如何いう意味だと思います?」



中島の頭に渦巻いていたのは、Aが消える寸前に口パクで云った言葉。



" ありがとう " と " またね " だ。



「如何したの、敦君。頭でも打った?」


「真剣に答えてください」



太宰はカラカラと笑うが中島のその表情を見たのか真剣な表情になる。



「… " また逢おう " って事じゃないかな」



中島はその言葉を聞いてハッとした。



Aの異能力は『云った事を数日間消す異能』

消した事は絶対に数日後には戻るって云っていた筈だ。



「なら、Aは生きている…?太宰さん!生きてます!!生きてるんですよ!Aは!!」



中島は急に太宰の両肩を掴みグラグラと揺らす。



「よ、よかったね、敦君。Aさんが誰か判らないけど、うん、取り敢えず、吐きそう」



太宰の声は無視し中島は駆け出した。



「ちょ、敦君?!」



流石の太宰でも今日の中島の行動は理解不可能だった。



* * *



中島は駆けていた。



足を虎化し彼女と出逢った場所まで一秒でも早く着くように。



「ねぇ!!何処なの!!」

中島は鶴見川に着き次第、Aを呼ぶ。



「居るんだろ!!」

中島の声は水面を揺らす。



「右だよ、右。白髪君」



不意に彼女の声がした。



あの時と全く同じだ。



中島は一つ深呼吸をして右に振り返った。



「久し振り、白髪く、」

Aが云っている途中で中島は抱きつく。



「ちょ、如何したの」


「心配した、心配した心配した!!どれだけ心配したと思ってるの?!」

中島は子どもの様に泣きじゃくっていた。



「ごめんね、でも約束したじゃん」


「…何て」

中島の声は籠っている。




「大丈夫、大丈夫。君の前からは消えないよ」




中島の啜り声は一旦途絶えた。



「…莫迦。もう絶対に消させないからね」


「…生意気」



泣き声と笑い声が周辺に響いた。




今日の昼飯は中島の奢りだ。




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作者名:遠藤氏 | 作成日時:2020年4月18日 14時

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