【文スト】云ってはいけない。【中島敦】 (ページ8)

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い _ VIII ページ8

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二人は食事する処を探していた。

「茶漬けが食べたい」

中島は昨日に訪れた茶屋を指差す。

「ヤダね、昨日食べたじゃん。栄養が偏る」

Aの発言に中島は少し驚いた。

其処まで考えていたのか、と。

「ていうか、また奢ってもらっちゃって大丈夫？」

中島はおずおずと云った。

二日連続で他人に奢るAに少し罪悪感を抱いたのだろう。

「大丈夫、大丈夫。アンタが無一文じゃなくなったら私に奢ってよ」

Aは何時も通り中島の前を歩いている。

「じゃあ、…お願いします」

中島も食事にありつけなくなるのは嫌だと思ったのか渋々云った。

「あ、彼処良さげじゃない？」

Aが指差したのは和風な喫茶処。

「ん～、こんな格好の奴でも入れてくれるかな」

中島はボロボロになった自身の服を見る。

「大丈夫、大丈夫。何かあった時は私が何とかする」

Aはそう云うと駆けて喫茶処を目指した。

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　キキキィ!!

その時、耳を劈(つんざ)く音が周囲に響いた。

貨物車(トラック)が横断歩道を渡るAに突っ込んでいく。

「A…!!」

中島は数メートル先で横断歩道を渡るAに手を伸ばした。

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…が、中島がAを呼ぶ声でAは振り返り口パクで云った。

　「ありがとう、またね」

後数センチメートルで届いたAの手は、気付いたら目の前にはなかった。

目の前を貨物車が通る。

骨の折れる音、

ジワジワと広がる血溜まり、

叫ぶ傍観者、

貨物車が逃げて行った後に残るAの無残な姿。

中島は呆然と立ち竦していた。

自分の所為でAが消えた、

Aの名を呼んでしまった。

昨日行った茶屋に行っとけばよかった。

色々な感情が中島の中で暴れ出す。

中島は顔面がぐちゃぐちゃになるくらい泣いた。

三日前に逢った人の死が中島の心にポッカリと穴を空けた。

中島は駆け出して、初めて出逢った川に向かっていた。

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