【文スト】云ってはいけない。【中島敦】 (ページ2)

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っ _ II ページ2

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「その前に、白髪君。お腹空いてそうだからあげるよ」

Aはそう云い、中島に飴玉三つをあげた。

これだけで腹が膨れるとは大抵の人は思わないが中島は末期だった。

「こんなに貰ってもいいんですか?!」

そう、中島は飴玉三つが焼肉食べ放題級に高価な物に見えるぐらい末期だ。

「アンタ、まじか…」

Aは言葉も出なかった。

それくらい中島は勢い良く飴玉を食べたのだ。

「…それで、如何して助けてくれたんですか？」

中島は飴玉をペロリと平らげた、一つだけ残して。

「助ける、になんて意味なんかないよ。誰かに感謝されたいワケでもないよ。ただ、私が助けたかったから。それだけ」

Aはそう云うと平らな石を取り、目の前に流れる川に投げた、水切りだ。

「…ありがとうございます」

世界にはこんなにも優しい人がいるのか、と中島は心にきた。

「それで飴玉の代(・)償(・)なんだけども」

前言撤回、 " 感謝 " は要らないが " 利益 " は要るみたいだ。

「君さ、私の名前、云わないでね」

Aは急に意味の判らない事を云う。

「それは、如何いう？」

中島には到底理解できない要求だった。

名を呼ぶな、と。

「だから、私の名前は呼んじゃダメ。呼んだら酷い事になるからね」

中島は理解できなかったが、取りあえず呼んではいけない事だけを頭に入れた。

「判りました。じゃあ、何て呼んだら」

「ん～、何でもイイよ。『ねえ』とか『あのさ』とかでも。後タメで」

それは呼び名ではないのでは、中島は思う。

「判った。じゃあ、何を協力すればいい？」

「これから三日間、私の隣に居て」

「…は」

Aの返答に素の反応をする中島。

夏じゃないのにギラギラと日差しが照り付ける日だった。

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