ステージ ページ17
「_本当の私を見ようとしてる人って少ないよなーって、時々思うんだよね。」
収録終わり偶然会った俺たちは、久々だから食事にでも行こうかと足を運んだ。
まだ太陽は燦々と照っている昼間のこと。
店に入り食事をとり、食後のコーヒーを飲んでいるタイミングで、伊瀬谷がポロリと溢した。
「みんなさ…なんていうの?お客さんに見せている伊瀬谷A以外も知ってるはずだし、本人たちもそう言うんだけど…けど、みんな私のことを、観客と同じように見てるじゃん。」
ずっと舞台に立っている気分だ。
そういったこいつに返す言葉を、俺は見つけることができそうもない。
俺だってその一人だ。
いや、正確にいえば、観客時々カメラマン。そんな中途半端な存在。
観客ほど偶像視していないが、カメラマンとして、『伊瀬谷A』という人間をレンズ越しに眺めている。
こいつが舞台を降りて尚、俺たち同業者は常にこいつをカメラで撮り続ける。
そうして観客に『俺たちが撮った伊瀬谷A』を見せ続けている。
本当のこいつに触れようと思っている人も、きっといる。触れようと思っているのに、触れたら否定されるような気がして、手を伸ばせずにいるのだろう。
俺は初めから、触れる気がない。
分かっている、こいつは誰よりも弱く、誰よりも寂しがりで、誰よりも怖いものが多い。
だから、知っているフリをする。
理解者というポジションで、弱みをしっているんだとこいつを安心させている。
だけど俺は、そんなこいつの弱みを、受け止めきれていない。俺の心の奥底が、「伊瀬谷Aは絶対的な存在なんだ」と訴え掛けてくる。
こいつに「周囲がそう思っている」ということを気づかせてしまったのが、何よりも悔しかった。
きっと、俺がどう思っているのか気付いていることだろう。
それでも、理解者として舞台に上がった俺のために、こうして俺に出番を与えた。
「…お前はさ、自分が思っている以上に周りに与える影響っていうのが強いんだよ」
芸歴が長い訳じゃない。寧ろ、新人から中堅へと移ったばかりくらいの歴だ。
俺の七年後にデビューして、俺が軌道に乗り始めた頃にやってきて、全てを持っていった。
アニメを見ている人間や雑誌、動画なので俺たちを見ている人間はそうでもなかっただろうが、この業界で伊瀬谷Aは絶対的な存在として、あの時確率してしまったのだ。
「中村も、自分もその一人だって?」
頷くことができず、黙ってコーヒーを飲み干した。
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作者名:志賀 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=sab
作成日時:2023年3月27日 18時