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「くそ……」
紅い月が闇夜を照らす中、魔法の結界の中だけで響く破壊音。そこらの木は横に倒れ、鳥達は逃げていった。その中心に立つは吸血鬼。ナハトだ。
尖った歯をギリリと音がなるほど食いしばり、息を切らしながら魔法で作った的を、一心に狙っていた。夜間、寮から出る事は校則違反であるが、彼にとっては校則などさほど怖くない様だった。
何度やっても上手く魔法を扱えない。魔法の才能が少しもない自分に心底腹が立つ。
努力は裏切らないなんて言うけど、努力が必ずしも実る訳では無い。ナハトがいくら頑張ろうと才能は開花しなかったのだから。使えたのは、束縛魔法だけ。
「…まだまだ……!」
顎を伝う汗を拭い、的へと手を向ける。が、途中でその手を止めて、全ての魔法を解いた。すると跡形もなかったかのように結界は解け、倒れた木は元通り。
険しい顔をしていたナハトも、何事も無かったかのようにいつもの様子に戻る。
月を見上げるように上を見れば、何かが宙を飛んでいた。
「(……ショコラ、っつったっけ………、あの方向音痴な奴か)」
方向音痴の癖に空は飛べるのか、と鼻で少し笑うと、屋根に登っていった。今夜は月が紅く輝くナハトにとって特別な日。
紅い瞳の
ルームメイトの親友も、昔からの知り合いも、弟のように可愛がる従兄弟だっている。でも皆魔法の才能があって、世界が分かれているようだった。
神を信仰していない自分にとっては、この学園の半分以上が敵だった。当然、あっち側からも嫌悪されている。そこでも1線引いていた。
でも、こうして静かな夜、ぼーっと空を見上げる時間は、全部を忘れられる幸せな時間だった。…故に、邪魔をされるのは嫌だろう。
邪魔するつもりなどないのだろうが、一瞬ショコラが目の前を通ったとき目が合った。
…ナハトは溜息をついた。
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