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―――――しくじった。
ナハトの頭の中はその言葉ばかりで埋まっていた。
噂とはやはり恐ろしいもので、夜から今朝までのほんの何時間の間に学園中に広まっている。そしてこうして今、自分の耳にまで入ってきた。…つまり、教師陣にも伝わっている可能性がある。
ナハトだって校則を理解している。
夜間、寮から出てはいないことも、神への冒涜や侮辱は許されないことも、恋愛が禁止されていることも。全部全部―――…、きっと覚悟をしている上で密かに破っている。
教師達に自分がやったとバレたら停学や退学じゃ済まない。
虫酸が走るような努力も、折角認めてもらった実力も、やっと築けたショコラとの関係も、全て崩れてしまう。そう考えるとやはり頭の中は不安で埋め尽くされていくのだった。
そんなの嫌だ。こんな自分を好きになってくれたショコラを失うなんて、そんなこと。それが一番怖い。怖い怖い怖い怖い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
耐えきれずにナハトはその場で強く強くショコラを抱き締めた。
突然の事にショコラは戸惑うが、戸惑いながらもぎゅっと優しく抱き締め返した。泣きそうな震える声で小さく呟いた。
「ショコラ……、何処にも行かないで、側に居て。俺の、俺だけのショコラでいて」
「…ナハト……?」
一見聞けば恐ろしい束縛なのだが、聞いていないのか理解していないのか、それとも意味を理解した上で抱き締め続けているのか。
嫉妬深いのも執念深いのも、昔から少しも変わっていなかった。
「どうしたの?…ナハト、何かあったの?」
ナハトを見つめるブルーの瞳が、ナハトには敵わないくらい眩しい青に見えて。
目を細めていとおしそうに微笑むと、ショコラと額同士を合わせて小さい声で言った。
「ショコラを巻き込みたくないから…失いたくないから、言えない。」
もし夜、自分が魔法を使っていたとバレれば、ショコラに話せば。どうなるかはわかっている。
ショコラのことだ、きっと考えるよりも先に助けに駆け込んで来るだろう。そして、ナハトが校則違反をしている事を隠していたとして――…、ショコラ自身も、恋愛をしている…校則違反をしているとして、何かしらの処罰を受けるかもしれない。
万一退学にならなかったとして、周りの人間から今までのような対応をしてもらえる保証などない。
どん底の辛さも苦しみも、出来損ないと罵られる心の痛みも、全て分かっている。
だからそんな痛み味わせない。
それが、ナハトなりの覚悟だった。
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