No.125 ページ26
彼と出会ってから、沢山の感情とその使い方について学んだ。
彼が私を「白瀬」と呼んでも、苦しみ叫ぶ子供達を胸に抱いても、その怒りや辛苦を幸せに変えることを覚えた。
それから導き出した答えは、この世界は思っていたよりずっと美しいということ。
この世界は幸せにしてくれるヒトで溢れている。惨苦に染まったそれを討ち粉々にする時、何よりも甘い幸せを手に出来る。
昔こそ違ったが、今や私はこの世界を望んでいる。希望に塗り変える必要なんて、初めから無かったんだ。不純な硝子は叩き割る為のもの。破片に切り裂かれて、もっともっと闇に堕ちてしまえばいい。完全に混濁した瞬間、全てを壊して幸せしかない世界を創る。
だから、壊すのは最後でいい。彼だって、最後にしようと言った。それなら光に焼かれるその時まで、この世界のもの全ては晴れない闇と苦痛に呪われておくべきだ。それがきっと、私を、皆を、世界をシアワセにする。
然るべき時、楽に終わらせる為に。面倒事は嫌いだ。
それを理解した今、ただ世界の全てが素晴らしい。全てが楽しい。
血を浴びるのも、刃に貫かれるのも、ヒトの顔が苦痛に歪むのも。それが幸福の土台になるなら、何を迷う必要があろうか。約束の為になるなら、何も悲しむ必要はない。世界はシンプルに幸せだけで満ちていればいいのだから。それ以上の考えも感情も、きっといらない。
彼につけられた傷さえ今は何とも思わなくて、ふわふわの袖を捲って腕の包帯を外す。
影で裂かれたそこは渦を巻く様な痕と共にどす黒く蝕まれていて、青白くて気味の悪い肌によく映えている。見た目に反して痛みは無く、寧ろ愛おしいくらいだった。目を細めて撫でると、裂傷特有のざらついた感触が指を這う。それは苦しくも心地よくて、確かに幸せの証だった。
この感覚がもっと欲しくて、向かってくる大人も逃げる大人も識別せずなぶり殺した。中には仲間達を傷付けた奴もいた。私を知っているらしい奴もいた。
それを屠る度、奇妙に停滞した脳から多幸感が溢れて、喜びを含んだ吐息が自然と零れる。
――もっとこうしたい。仲間達が生きる幸せな世界の為に、不純物を排除したい。その瞬間を思うだけで、胸が打ち震える。
果てなき快楽主義に走らされたのは誰のせいだったか、今となっては自分でもよく分からない。
だけどそれも世界の礎になるなら、もう深く考えるだけ無駄というものだろう。
彼とは少し違った理由で、けれど彼らの為に、刃を振り上げた。
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花梨(プロフ) - 皆さまお疲れ様でした〜 (2018年9月14日 22時) (レス) id: e3aad0174a (このIDを非表示/違反報告)
透明少女(プロフ) - お疲れ様でした!あまり参加出来ずにいて申し訳ありませんでした…!本当にありがとうございました!! (2018年9月14日 21時) (レス) id: 6dddb2cb16 (このIDを非表示/違反報告)
睦都(プロフ) - 初めからずっと見てました!主催者様、参加者様の皆様お疲れ様でした!剣士君たちとても好きです(*^^*)ほんとうにお疲れ様でした (2018年9月14日 19時) (レス) id: 3a040f6594 (このIDを非表示/違反報告)
羊素。(プロフ) - 遂に完結ですか…少し寂しい気もしますが、主催者様、及び参加者の皆様、お疲れさまでした。 (2018年9月14日 5時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - お疲れ様でした! (2018年9月13日 18時) (レス) id: c46d432f11 (このIDを非表示/違反報告)
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