No.108 ページ9
──瑠璃歌、幼稚園は楽しい?
──うん! すっごく、すっごく楽しいよ!
お歌が上手って褒められた。
今日の髪型似合ってるよって褒められた。
当時の私はとても幸せで、それが永遠に続くと思ってた。
そんな甘い考えは幻想に過ぎなかったけど、それでも私は幸せで幸せで……。
──瑠璃歌、帰りなさい。
──え? 今からお家に帰るんでしょ?
──良いから戻って来なさい。ねぇ、起きて。瑠璃歌、瑠璃、瑠璃ちゃん……!
「瑠璃ちゃん!!」
「っ!?」
瑠璃歌が目を覚ますと、絢音の心配そうな表情が視界に入る。その端には少し苛ついた様子の郁深が此方を盗み見ていた。
急速に覚醒する意識の中、夢の中で見た光景は非常に見覚えがあった。
幼い自分の手を引く母の姿。夕焼け色に染まる住宅街。今はもう戻らない幸せな光景。
そう、とどのつまり。
「走馬灯ぉおおお!!」
「瑠璃ちゃん!?」
大声を上げながら腹筋をフルに使って起き上がる瑠璃歌に、絢音は勿論、郁深でさえも驚く。
それだけに留まらず、瑠璃歌はペタペタと自分の顔や身体を触りながら、周囲を見渡す等の奇行を繰り返す。そのあまりの様子に、絢音と郁深の二人は唖然としていた。
「え? え?」
「……頭でもイかれたのか?」
暫く様子を見ていると、突然瑠璃歌の動きが止まる。今度は何だと戸惑う二人を他所に、瑠璃歌はポツリと呟いた。
「い……生きてる。私、生きて……!」
「うん、そうよ。まだ生きてる」
「あの時、絢音が能力で植物の壁を作ってくれたんだ」
郁深に言われて地面を見ると、千切れた蔦が幾つも転がっていた。所々に焼けた跡があり、あの爆風の威力がどれだけの物だったのかが窺い知れる。
周囲は焦げ臭く、異様な熱気に包まれていた。季節は夏。だが、この暑さは猛暑だからでは済まされない、火に炙られているかの様な暑さだった。
「あの後、瑠璃ちゃん倒れたのよ。どっか打ってない? 頭とか……」
「走馬灯って、結局ヤバイと思う」
「お、お騒がせしてすみません! 以後、気を付けますので!」
「そこまでしなくて良いから!」
絢音はビックリする程綺麗な土下座をする瑠璃歌を慌てて止めると、背後からカサッと木々が擦れる音が鳴った。
「誰だ!」
郁深が二人の前に出て身構えると、物陰から金属バットを引き摺り、泥だらけの服を着た幼い一人の少女が現れる。その目には大粒の涙を溜めながら。
「うぅ……皆、どこ行っちゃったの?」
「え!?」
泣き出す少女を前に、三人は顔を見合わせた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 7人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
花梨(プロフ) - 皆さまお疲れ様でした〜 (2018年9月14日 22時) (
レス) id: e3aad0174a (このIDを非表示/違反報告)
透明少女(プロフ) - お疲れ様でした！あまり参加出来ずにいて申し訳ありませんでした…！本当にありがとうございました！！ (2018年9月14日 21時) (レス) id: 6dddb2cb16 (このIDを非表示/違反報告)
睦都(プロフ) - 初めからずっと見てました！主催者様、参加者様の皆様お疲れ様でした！剣士君たちとても好きです(*^^*)ほんとうにお疲れ様でした (2018年9月14日 19時) (レス) id: 3a040f6594 (このIDを非表示/違反報告)
羊素。(プロフ) - 遂に完結ですか…少し寂しい気もしますが、主催者様、及び参加者の皆様、お疲れさまでした。 (2018年9月14日 5時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - お疲れ様でした！ (2018年9月13日 18時) (レス) id: c46d432f11 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
