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No.110 ページ11

どうしてこんな事になったのだろう。なってしまったんだろう。剣士の頭の中はそんな疑問でどんどん埋まっていく。
…本当に考えなきゃいけないことが、どんどん、見えなくなっていく。


「オレ達は…、オレはこんな世界…望んでない……!」


大人へと向けたハズの憎しみの刃は、今どういう訳か自分自身に向いている。
純粋故に脆かったその心が、ほろりほろりと崩れていく。
それでも身体は動いている。黒い刀身を、赤く染めていく。


仲間の呼ぶ声が聞こえた気がした。剣士はひとりで突っ走っている。
それでも声は剣士の耳には届かなかった。
何故か、剣士の口角は上へと上がっていた。狂っているような、でもどこか純粋無垢な笑顔。


「…?」


一瞬、小さい人間が視界に入った。いや、正確には小さな腕。細く柔らかそうなその腕からは、自分の瞳と同じ血色をした液体が流れて出ていた。
そこからはこもった泣き声が聞こえた。
襲ってくる大人を一蹴、すぐさまそこに駆け寄り、上に乗っかった瓦礫を崩した。


するとそこには自分では考えられない光景があった。
その子供と思われる女は、少年を抱えていた。それは、どう見ても瓦礫から少年を守っているようだった。
剣士からすればそれは、ドラマの中の空想の大人達がすることだった。


「お母さん…!助けに来てくれたよ!」


少年が女を揺すった。毛頭、助けに来たつもりなどない。ただ、それを「見ないといけない」とでも言うように、引き付けられた気がしたのだ。
女は動かない。剣士は何度も見た光景だった。瞼は重く閉じられ、足なんておかしな方向に曲がっていた。


少年は泣きじゃくった。母親を亡くして泣いているのだ。自身の中学時代を思い出す。
父と母が死んだ…正確には自分が殺してしまったのだが、少しも涙なんて出てこなかった。
そこで剣士は気が付いた。


「………___!」


――――この少年は愛されていたんだ。


また、この女も少年に愛されていた。剣士は脳みそを埋めつくした疑問の中に知らなければいけないものを少し見つけた気がした。
『自分に無かったもの。欠けているもの』
暗闇の中の弱い蝋燭の光のように、見えるか見えないかのそれ。


剣士は意味もなく、心に従うまま少年に歩み寄った。少年は剣士を見てもっと泣いた。
剣士は少年の頭を撫でようとした。そしてその寸前で手を止める。
…大人を殺して血塗れたこの手で、少年を慰める権利なんてないと。


剣士は、手を握り締めて目を閉じた。

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花梨(プロフ) - 皆さまお疲れ様でした〜 (2018年9月14日 22時) (レス) id: e3aad0174a (このIDを非表示/違反報告)
透明少女(プロフ) - お疲れ様でした!あまり参加出来ずにいて申し訳ありませんでした…!本当にありがとうございました!! (2018年9月14日 21時) (レス) id: 6dddb2cb16 (このIDを非表示/違反報告)
睦都(プロフ) - 初めからずっと見てました!主催者様、参加者様の皆様お疲れ様でした!剣士君たちとても好きです(*^^*)ほんとうにお疲れ様でした (2018年9月14日 19時) (レス) id: 3a040f6594 (このIDを非表示/違反報告)
羊素。(プロフ) - 遂に完結ですか…少し寂しい気もしますが、主催者様、及び参加者の皆様、お疲れさまでした。 (2018年9月14日 5時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - お疲れ様でした! (2018年9月13日 18時) (レス) id: c46d432f11 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:カレーライス x他10人 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2018年8月4日 11時

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