No.73 ページ24
この世界は汚れてる。
生誕、巡る死、憎悪、愛、どれだってこの世界で行われるならそれは新たな苦しみに繋がる。
ならば狂気と恐れられようが外道と罵られようが、汚れたものは全て消してしまえばいい。そうすれば、後に残るのはきっと幸せな光景だけのはず。
私は幸せな夢だけを見ていたい。私を苦しめる現実だって、仲間を傷付ける敵だって、そんなものは夢幻だったとしても必要ない。
私の首を絞める縄なんて、存在する事すら許さない。
だけど、幸せに首を絞められたら、私はどうしたらいいのだろう。
――――
「オレ……オレ……っ、何から話せばいいのかわかんないけど……!凄く……嬉しくて……」
涙を堪えた青年が、人形を抱き締めたまま微動だにしない彼に歩み寄る。
その声は明らかに喜びが滲んでいたし、彼の虚ろで危うげな雰囲気なんて何も気にしていないようだった。
いや、気にする必要がなかったのかもしれない。今青年の目の前にいるのは、ただの大切な旧友なのだから。
彼だって、確かに嬉しかった。確かに幸せを感じていた。
しかしそれは魂が抜けたような死んだ顔にも、人形の頭を引っかけた棒のような腕にも表れず、ただ静かに、人形と同じく何も動かず、焦点も曖昧なままに青年を見つめている。
どうやってここまで歩いて来たのか、何も覚えていなかった。
心地良くも苦しい光から逃げていたような、導かれていたような。途中、悲鳴だか怒号だかも聞こえた気がしなくもない。何かに斬られたような、撃たれたような感覚がしなくもない。
けれど、今はそれも分からない。
ただ一つ分かるのは、この青年がとても大切な友人で、そして敵同士だという、どうしようもない事実。
彼自身、それは分かるが、理解して受け入れられるかといえば別だった。受け入れられない感情は受け皿も無く、心を覆い尽くしては脳内を突き刺す。
得体の知れない何かで串刺しにされた頭ではまともに考える事も出来なくて、目の前の青年に対する愛に、憎悪に、執着に、留め具を無くした様々な想いが彼の手を震わせた。
(どうしてこの子が敵なの?嫌だ、この子が敵なんて嫌だ、友達なのに、君のこと大好きなのに、こんなの嫌だ――)
白い歯がガチリと砕け散りそうな音を立て、生気の無い濁った赤い瞳に、誰に対する訳でもない悲しみと殺意と愛が入り混じった炎が宿る。
今の彼に必要なのは、友の声でも慰めでもなく、混沌としたこれをぶつける相手だった。
9人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
すふ丸@課題消化につき低浮上(プロフ) - 盛り上がってますね……!更新ペースが落ちないので凄く安心感があります。えげつない量の課題を与えられてしまったため中々更新はできませんが、皆様が第三部にどう繋げていくのか、企画参加者として今後の展開を楽しみにしております\(^o^)/ (2018年7月29日 13時) (レス) id: d6d481a1f7 (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - 第二部、二つの組織がぶつかってからの怒涛の更新……! 皆様お疲れ様です。 (2018年7月29日 13時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
一酸化炭素。(プロフ) - 遂に幻聴が聞こえ始めたかもしれないウチの子…誰か助けて (2018年7月27日 12時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - あはー、また謎の文字化けしてる……。一体なぜ。 (2018年7月27日 11時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
ドットコム(プロフ) - Sakiさん» 淋ちゃんは流架さんラブなので必然的に出ますよw (2018年7月26日 21時) (レス) id: e6a479853a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ