No.65 ページ16
ステップを踏むような軽い足取りで、茜色に染まっていく世界を歩く。
いつもは仲間達と遊んだりしているこの時間、出歩いてみるというのは新鮮だった。
コンクリートを淡く覆う焼けた光が、それを踏みしめる足も体も守ってくれるかのようにオレンジ色に輝いて、すぐ後ろには黒い影が全く同じ足取りでついてまわる。
しかし太刀の興味は一点に縫い付けられたまま、子供だったらとうに門限を過ぎているこの時間も、彼の仲間が各々“仕事”に励んでいる事も、全部頭の片隅に追いやって、全部興味が無いとでも言うように、ただ前を歩く青年だけをじっと見詰めていた。
青年が昔からの好物である唐揚げを頬張る瞬間に、前髪が風に靡く瞬間、その時に見えた自分と同じ色の目。
固く縫われたように視線を外さず、一つも見逃さずに青年だけを見詰め続ける。もはやこの縫い目は彼にでも解けないようだったし、解く気だってないのだろう。
人形に生えたふわふわの角に指を食い込ませて、その作り物の角よりずっと尖っている犬歯を覗かせて笑い、河原に腰かけた青年をとても幸せそうに眺めていた。首領としての彼ならば絶対に見せないであろう、純粋に心からの喜びのみで構成された満面の笑みで。
視界の片隅に映ったはずの仲間の一人だって気にならないほど、夕焼けより輝く視線を吸いつかせていた。
だが刹那、楽しそうだった口元は歪み、青白い顔に苦悶とも絶望ともとれる表情がまざまざと浮かぶ。目の前で親兄弟を殺されたような、あるいは信頼していた友に刃を突き立てられたような。
それでも縫われた視線は解けず、震える瞳で青年を捉え続ける。
「いや……ちょっと唐揚げを買いに行っ」
「紫音ちゃん怒ってたよ!!」
「首領さん。紫音さん怒ってましたよ。もう、そんなでラビッシュの首領が務まるんですか?」
彼が今まで幾度となく見て、剣を向けた、言わば彼の敵であるラビッシュの隊員達。それが、青年を優しい笑顔で囲んでいた。
彼はそれを理解したくないと思ったが、しかし混乱した脳はそれも命令出来ないらしい。
――生まれて初めて、私を蔑まずに、そればかりか一緒に遊んでくれた。走り回って、屋根に登って、暗くなってもあの子を家に帰さなかったり。ほんのちょっと悪い事から、命に関わるような事までやって。また会いたいと、ずっとずっと願っていた。
そんな大切なあの子が……
仲間を傷付けるから要らないと思ってたあいつらの首領が、あの子?
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すふ丸@課題消化につき低浮上(プロフ) - 盛り上がってますね……!更新ペースが落ちないので凄く安心感があります。えげつない量の課題を与えられてしまったため中々更新はできませんが、皆様が第三部にどう繋げていくのか、企画参加者として今後の展開を楽しみにしております\(^o^)/ (2018年7月29日 13時) (レス) id: d6d481a1f7 (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - 第二部、二つの組織がぶつかってからの怒涛の更新……! 皆様お疲れ様です。 (2018年7月29日 13時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
一酸化炭素。(プロフ) - 遂に幻聴が聞こえ始めたかもしれないウチの子…誰か助けて (2018年7月27日 12時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - あはー、また謎の文字化けしてる……。一体なぜ。 (2018年7月27日 11時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
ドットコム(プロフ) - Sakiさん» 淋ちゃんは流架さんラブなので必然的に出ますよw (2018年7月26日 21時) (レス) id: e6a479853a (このIDを非表示/違反報告)
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