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□ 第85話 セレナーデ □ ページ35

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「あ、見てバラト! 美春が新しいCD出したんだって」

 あれから暫く経つ。新しい日常に戻った千秋はその安定感にどこか安心していた。あの日はバラトにこっぴどく絞られた。「調子に乗るな」と何時間正座させられた事か。そんな事ももう忘れ、パソコンを見ながら千秋は言う。バラトはソファーの後ろ側からパソコンの画面を覗くと、「いい目してるぜお前の妹」と笑った。

 きっとバラトには千秋が美春に何をしたのか分かっているのだろう。バラトの顔は、何処か満足げだった。


「そう言えば「俺がお前を愛してやる!」なんてバラト大胆だね〜」
「そういう愛してやるじゃねぇよ勘違いすんなクソガキ」

 あの日の事を思いだし小馬鹿にするように千秋は言う。バラトは目をつり上げながらソファーに座っている千秋にデコピンを食らわせた。
 千秋は実際、あの言葉を聞いてあれ以上嬉しいこともないと思った。バラトの言う「愛」が、皆に平等にある博愛の愛であっても、愛を向けてくれるなら、それを感じられるなら千秋は幸せだ。ペットでも家事ロボットでもこの際なんでもいいと思うほどだった。

「あーうるせぇ! あっち行けクソガキ!」
「ちょ、私が座ってたのに!」

 「お前なんか誘拐しなきゃ良かった」なんて事を言わないのがバラトの良いところだろう。
 千秋はぐぐっとバラトに押し退けられてソファーから飛び出す。バラトをじろっと睨むがその頃には知らんぷりで棒つきキャンディを食べていた。「このトサカ」そう思ったが言わないでおいた。


 バラトはパソコンを下へスクロールする。そこにはCDについて詳しく書かれていた。バラトはそれを見ると目を見開いた。ふ、と溜め息を吐くように笑うと、パタンとパソコンを閉じる。何笑ってるの、と千秋はバラトに聞いたが、バラトは何も答えずにソファーに寝転がった。




「お姉ちゃんが世界中何処に行ったって私の姉って分かるようにしてあげる」

 美春はCDを片手に窓の外を眺めた。何処にいるかも分からない、千秋の事を考えながら。すぐに世界一のピアニストになって、世界中に相原美春の名前を広げる。そして、千秋が世界中何処に居ても、相原美春は存在すると知らしめてやるのだ。そんな企みを胸に、美春は今日も白と黒の鍵盤に、その華奢な両手の指を置く。


 発売されるCDの曲の三曲目は──…、“愛する姉へのセレナーデ”。

■ 第六章 神去る女医と名医編 ■→←□ 第84話 違うでしょ □



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設定タグ:オリジナル , 小説 , 恋愛   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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くろせ(プロフ) - 紅葉さん» ありがとうございます!検討致します (2019年5月10日 18時) (レス) id: 172c2d6dd4 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - 千秋ちゃんが大犯罪者でバラトが誘拐される立場逆転物語を見てみたいです。 (2019年5月10日 15時) (レス) id: 95b6da62c6 (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - そうですか……わかりました!企画の検討お願いします! (2019年5月10日 0時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
くろせ(プロフ) - 白雪の鴉亭さん» 猩々木ちゃんは、千秋(嘘吐きさん)のターンで殺されたのではなく、投票で殺されたので、本当に死んでしまった形になります。企画の件、検討します! (2019年5月9日 23時) (レス) id: 172c2d6dd4 (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - 募集したキャラのその後とか書いて欲しいです!(ただ単にポインセチアがどうなったのか気になるだけですが……) (2019年5月9日 23時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:くろせ | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年4月28日 22時

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