□ 第54話 憎しみ □ ページ4
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「申し遅れました。私はカエサルといいます」
「パトラです。よろしくお願いいたします」
「えっと…、…アキです。どうも…」
千秋より少し年上に見えるパトラ。大好きであろうバラトに関しては目がないようだが、落ち着いた雰囲気を纏っていてその声は紛れもなく美しいものだった。一方カエサル。パトラと同年代くらいに見える。ちゃんと挨拶はしているがどうもひねくれ具合が伺える。千秋は思い切って2人に聞いた。
「あの、バラトとはどういう関係で…?」
「関係と言っても3回しか会ってないじゃないですかお嬢様」
「まぁその言葉に足り得るかは分からないけれど…、強いて言えば、婚約者を殺された被害者、なんてところですわ」
ステラたちほど流暢ではない日本語で喋るパトラの言葉に千秋は思わず口を開ける。婚約者を殺されたと言うのにバラトを好くとはどんな科学反応が起きたと言うのだ。どういう事ですか、そう聞こうとするとアナウンスが遮るように流れた。ゲームが始まるらしい。ゲームの参加権があるバラトは「じゃあ行くわ」とひらひら手を振りながら居なくなった。
奥に現れたスクリーン。そこにはゲームを生き残った犯罪者達が立ち並んでいる。その中には当然ながらバラトもいた。そんなバラトを見てパトラは惚れ惚れしながら話した。「ご覧になって、バラトの瞳」
「人って誰しも下心や嘘や虚像、憎しみがあるでしょう?私だってカエサルだってアキさんだって、無いはずがないでしょう?」
「? …ええ、はい…」
「私、幼い頃から沢山の嘘や憎しみを見てきているから人のそれがどの程度なのか目を見たらすぐわかるの。バラトのあの瞳、ずっと見ていたいわ」
バラトの瞳と言えば真っ赤で真っ直ぐで槍のようだ。彼に見詰められると射抜かれるようで落ち着けないのが千秋の心情である。バラトの瞳は下心や嘘や虚像でいっぱいだとでも言うのだろうか、と思っていた千秋はパトラの次の声に目を見開いた。「バラトにはそれがひとつもないの」そう、確かに言った。バラトに憎しみがないと考えるのは難しい。なんと言っても世紀の大犯罪者だ。彼の原動力として思い付くのは棒付きキャンディか芸術か憎しみや憤りである。
「バラトはこの広い世界中で誰のことも、何のことも恨んでいない。妬んでいない。全てを愛しているの。愛せるの。私はそんな彼に憧れて、愛したくて愛されたくて、恋焦がれているの」
胸に手を当てて、パトラは幸せそうにそう呟いた。
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くろせ(プロフ) - 紅葉さん» ありがとうございます!検討致します (2019年5月10日 18時) (レス) id: 172c2d6dd4 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - 千秋ちゃんが大犯罪者でバラトが誘拐される立場逆転物語を見てみたいです。 (2019年5月10日 15時) (レス) id: 95b6da62c6 (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - そうですか……わかりました!企画の検討お願いします! (2019年5月10日 0時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
くろせ(プロフ) - 白雪の鴉亭さん» 猩々木ちゃんは、千秋(嘘吐きさん)のターンで殺されたのではなく、投票で殺されたので、本当に死んでしまった形になります。企画の件、検討します! (2019年5月9日 23時) (レス) id: 172c2d6dd4 (このIDを非表示/違反報告)
白雪の鴉亭(プロフ) - 募集したキャラのその後とか書いて欲しいです!(ただ単にポインセチアがどうなったのか気になるだけですが……) (2019年5月9日 23時) (レス) id: 033af8111d (このIDを非表示/違反報告)
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