No.18 ページ28
私は1人、泉の淵に居た。足で泉の水をペチペチと叩きながら、優しい風に心奪われていた。この平穏な空気に、思わず安堵の溜息が漏れる。
と、いきなり身体を支えていた左手が、ドロリと溶けてしまった。バランスが崩れた私は、地面に顔をぶつける。
チ「あうっ!」
しかし、痛い痛いと頬を撫でる暇も無く、私は溶けてしまった左手の部分を掻き集め、泉に入れた。そして左手を突っ込み、暫く待つ。手を上げると、また左手が出来ていた。私は、思わず落ち着くための溜息を零す。
そう言えば私は、生まれたときから左手の小指が無い。別に不自由したわけじゃないけれど、少し不思議。凄い魔術を使える彼が、こんな初歩的なミスをするなんて。
カ「女神様!」
そのとき、カラ松が森から出てきた。私は彼に笑顔を向ける。左手が取れたときじゃなくて良かった。
チ「どうしたんですか?」
カ「大変だ、5年前の事件の堕天使が、さっき見つかったらしい!」
チ「えぇ!?」
その情報については、先程カラ松に回したばかりだったから、私はすぐに理解した。5年前に、この街の魔法使いの魔法に手を加え、羽と下半身を天界の女神に奪われた堕天使。罪人として追われ、他の国に逃げたという噂もあったけれど…。
私は別に、堕天使を無理に捕まえようとは思っていない。確かに罪人だが、それだけで殺すのも何だかおかしい気がする。それに、その堕天使は…
私の
カ「こっちだ、女神様!」
焦った様子で私の腕を引くカラ松。私はよろけながらも、カラ松に着いて行った。
走るのに必死でよく見えなかったけれど、カラ松はこれから起きることが楽しみらしく、随分と笑っていた。
僕が生まれたとき、人々は恐ろしい物を見る目で僕を見た。僕を生み出した魔法使いは、恐怖に震えながら僕を見た。きっかけを作った堕天使は、面白そうに僕を見た。
僕が造られたことで喜ぶ人など、居なかったのだ。
「な、何でバケモンが出来たんだ!?」
「まさかお前、コイツで俺らを殺すつもりだったのか!」
?「そ、そんなこと…!」
「じゃあ何で雨を降らせるはずなのに、コイツを造ったんだよ!!」
?「僕にだって、分からない…」
嗚呼、泣かないでよ魔法使い。生まれてきた僕が哀れになる。僕はバケモンじゃないよ。命を授かった生き物なのに。
と、僕の身体はいきなり空へ持ち上がった。誰かが僕を持って、空を飛んでいるんだ。
十「もう、大丈夫だから…!」
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作者名:しおんの蜂蜜 x他2人 | 作成日時:2018年6月9日 23時