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「でもお前、そしたら退屈やろ」
綺麗に話がまとまったところで、ゾムは近くのソファーに腰掛けた。
それを見たコネシマは本棚を漁り、鬱先生は近くの家具を眺める。トントンとロボロは持ってきている食料を広げ始めた。ゾムと魔王の話が長くなりそうだと察しての行動だった。
「ここでずっと一人で居んねやろ？」
「まぁ基本的に……」
「退屈やん」
「退屈ですね。世界滅ぼしてみよっかなみたいに思う時ありますもん」
ピシィッ、と空気が凍った。魔王はあはは、と笑っている。魔王ジョークは洒落にならない。
「また遊びに来たるわ」
ゾムは言った。
途端、魔王の目が見開かれる。
「友達も居らへんねやろ、その感じやと。俺らが友達になったるわ」
魔王は何も言わずに、一筋の涙を流した。
……合わせて、窓の外でコウモリが一斉に羽ばたき、部屋の床に花が咲いた。不気味とファンシーで絵面が凄い。ただ、魔王の心が動いたことは間違いなかった。
「名前は？あるんやろ、普通の名前」
幼少期から友人も出来ず、魔王魔王と呼ばれてきた彼女。
町に居ると迷惑がかかるからと、人を避けて生きてきた。
「……A、です」
「ええ名前やん」
ゾムはそう言った。褒めてやろうと思ったわけでもなく、素で思った言葉だった。
「A」
生まれてはじめてちゃんとした名前で呼ばれた彼女は、
「は、はい！」
頬を染めて、嬉しそうに返事をした。
窓の外では雲が晴れ、満点の星空と明るい月が辺りを照らしている。部屋中に花が舞い、コウモリは踊る。
魔王が恋に落ちた瞬間だった。
＊
「ゾムさん！また来てくださったんですね！」
「今日の飯はめっちゃうまい店のやから期待してええで」
魔王の城は今日もピカピカ輝いていて、鬱々としていた森には小鳥のさえずりが聞こえる。
「はじめて来てくださったときも、ゾムさんは同じことを言ってくれたんです」
Aは、近くのコウモリにそう話した。
「あのときの私はまだ子どもで、ゾムさんも子どもだったんですけど……」
寂しいやろ。
そう声をかけてくれた青年が、町に帰って、「本当は魔王はええやつや」なんて言いふらしても。
きっと町の人は耳を貸さないし、洗脳されたと思い込んで、彼の立場が悪くなるだけだから。
そう考えた魔王は、「ありがとう」とだけ言って、記憶を消し、彼を送り帰した。
すこしの寂しさと、心のあたたかさを感じて。
「もう一度会いたいって、本当はずっと思っていました」
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