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人を殺すたびに葉を刻む。
背中は比較的痛みがマシと聞いていたが、痛いことに変わりはなかった。スケールは違うが迷い込んだ羽虫が気になって眠れないような感覚。呻くほどきつい部分も斑らにあって、気分は滅入るばかりだ。
退屈しのぎにラジオか何か聞けないかと提案するとため息をつかれた。
「暇って言うのゾムさんくらいですよ」
「ゾムさん？」
「……ゾム」
呆れを前面に押し出した表情にすら、なにか特別な感情を見出したくて目が離せない。揶揄うようにへらりと口元を歪ませて、そのまま湯呑みを受け取った。底を支える小指がじわじわと熱される。
「温度上げます？」
「や、へーき」
温度を確かめるように唇で淵に触れている。猫舌のくせに熱い茶を好む矛盾すら好ましく捉えてしまうのだからつくづく末期だ。どうしようもない。
どうしようもないほど、Aに恋をしている。
「おかわりは？」
「頼むわ」
底に溜まった茶渋は胸が焼けるほど苦かった。
「え？ 惚気？」
「聞いてきたのそっちやろ撃つぞ」
「理不尽〜」
大先生は肩をすくめて並べていた道具を片付け始める。摘出された5センチ程度の弾丸は赤黒く汚れたままトレーの上に散っていた。
ケチって劣化した情報しか渡さなかった雇用主は既に切ったが、どのみちしばらく休業は確定だろう。ふくらはぎの包帯を見るたび億劫になる。
蛇口をひねる闇医者相手に脅すことも値切ることも難しくはない。ただやる気がない。
そうすると残った金は更に家賃が引かれて、光熱費飯代その他諸々。あーでも家に張られてたら面倒だ。
「大先生泊めてー」
「一晩十万でええよ」
「たっか」
他の雇用主に借りは作りたくない。さりとて便利な知り合いに心当たりはない。
「Aちゃんち行けばええんちゃう」
「ヒモになるくらいなら十万払うわ」
彼女を巻き込むつもりはない。
口に出していないはずなのに、大先生はわざわざ振り返ると鼻で笑った。
「その子もカタギちゃうなら覚悟はしとるやろ。常連のまま終わってええんか」
言うだけ言って洗浄を再開している。ざばざばと響く水の音。あぁなんだ、結局言葉を重ねたところでビビって手を出さなかったのは、親しい常連で満足していたのは、俺だったか。
ため息をついて寝転ぶ。手術台は自分の体温でしっとりして気持ち悪い。
「治るまで世話になるな」
「話聞いてた！？」
だって大先生が死ぬ分には構わんし。
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