↓ ページ26
私には何もできないから、言う通りにするだけだ。すっと頭から手が離れ、思わず視線で手を追えばカウンターの外側に身体を向け、銃声を響かせる。店長の銃から飛んできただろう空薬莢がサンダル越しの小指に当たって思わず足を引っ込めた。
「くっそ、アイス食えへんやんけ」
「慣れてません、か………」
「あーまぁな、すまんすぐ終わらしたるから」
するりと頬を撫でられる。何が何だか分からないけれど、店長が怖い訳ではないから必死で首を横に振った。
「袋くれん？」
「ん！」
「よしよしよしよし、あ、ドーナツかっとったんか」
袋の中身を確認して、中に周りに散らばっていた薬莢を適当に入れ始める。終いにその袋はきつく縛られ、パンパンに詰まったものは遠心力でぶんぶん振り回され始めた。
「A、後でまた買ってきて」
一つ首を縦に振れば、ニッと白い歯を見せて、カウンター越しに袋を後ろへと吹き飛ばした。
「いくぞ」
そのまま私の腕を取り、銃撃を繰り返しながら開け放たれた裏口から駐輪場に出て、一台のバイクを吹かし掛け始める。銃口を四方に向けては何かあれば撃って、弾の入ったところを外して付け直し、私にハンドルを握らせた。
「わ、私ですか？！」
「守ってやるから早く乗るんだよおらァ」
軽い調子で脅してくるこの人は、このあんまりにも悲惨な状況で頭おかしくなっている。それでも、今生き残るために頼れるのはこの人しかいない。
私の手ごとハンドルを回して、後ろに飛び乗ってくる。慌てて両手でハンドルを握れば、ブレーキが外されタイヤは前に転がり始めた。運転の意思が伝わってか、後ろから腕が腰に回る。
フェンスを圧し潰し、店の裏通りを真っ直ぐ走って大通りに出れば唸るタイヤは音を上げた。
「A、乳でっか」
「セクハラで訴えますよ！」
「ンフフフフ、お前も捕まんで」
「は？」
「この辺のでっかいヤクザに喧嘩売っとった元殺し屋の逃亡！フハハ、手伝っとんねんで！」
「は、はぁ？！」
言葉に対してリアクションは取れても、頭に入れる余裕がない。
ビルの影から現れたいかついヘリにギョッとして、頭で思い描いていたよりも一本手前の路地に入る。曲がり切って建物の影に入る前に、真後ろから激しい音がして、遠くで爆発音が響いた。
「A、お前、お前ー、運転上手いやん」
「馬鹿、店長の馬鹿！！！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 76人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
