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自室に戻ろうと来た道を引き返しているとリビングの戸が開けっぱなしになっていた。ちら、と覗くと机の上に新聞が置きっぱなしになっている。
近寄って新聞を手に取ると『今宵、囚われたサファイアを頂戴します』と書かれた記事が新聞の一枚目にでかでかと記載されていた。
最近巷を騒がせている怪盗団
とにかく手口が鮮やかで、警察はしっぽさえ掴めてないとか。
……まあ、私には何の関係もないんだけど
漏れた自嘲の笑みは誰にも届かず消える。
新聞を机に戻し、私は部屋を出た。
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夕方になるとサイレンの音の数も増え始め、警備服を着た人たちが本館の方にズラっと整列していた。
壮観とも言える光景だが、正直私からしたら騒音の原因ともなる彼らを見て壮観とはとても言えない。むしろ虫のようにうじゃうじゃしていて気持ち悪かった。
ついさっき、母が来て「今晩は部屋から出ちゃ駄目よ」と外から鍵をかけていった。内側からは鍵が開けられないように特殊な作りになっている為、出ることは出来ず、部屋にいるしかなかった。
ぼーっとして適当に時間を潰していると新聞で見た予告時間までは十分を切っていた。
きっと今頃現場では緊張感が走っているのだろう。
外の空気が吸いたくなって窓を開くと風でカーテンがふわりと靡く。
夜空に浮かぶ月の美しさはいつもと変わらず、漂う艶やかさに魅入った。
このまま空に翔けだせたらいいのに、なんて夢のようなことを思ってしまうのも、あの月に魅了されてしまったからだろうか。
そんな自分に呆れてため息をつくと何処からか声が聞こえてきた。
「俺が連れてったろか？」
「へ、」
バッと音を立てんばかりの勢いで目の前に男の人が現れ、その人は窓の縁に着地した。
フードを被ったその人は顔がよく見えなくて、いかにも怪しい雰囲気が満載だった。
が、私は男の印象より、その男の放った言葉に惹かれていた。
「連れ出してくれるんですか、？」
「まあ、お前を連れ出す為に来たんやしな」
「えっ？」
ほら、覚えとらん？と言ってフードを取った男の顔には確かに見覚えがあった。
「あっ、」
「久しぶりやな、A」
何年ぶりに見る顔だろう
ふつふつと懐かしさが込み上げる。
顔つきは大人っぽくなったが、昔の面影が残っていて私はすぐに誰だか分かった。
それはかつて私に外の世界を教えてくれた人だった。
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