怪盗と令嬢 ページ12
【今宵、貴方を頂戴します】
「今日の授業はこれで終わりにします。予復習はしっかりとするように」
そう言い捨てると先生は出ていった。
「疲れた…」
緊張感あるパリッとした空気が緩み、力が抜けた私は椅子の背もたれに寄りかかる。
開いた窓から楽しそうに笑い合う学生の声が聞こえてきて、私は羨望の目で彼らを見つめた。
はぁ…私も学校で授業を受けたい
学校に行かせてもらえなくなってからもう十年近く経った気がする。
きっかけはエレメンタリースクール時代。友達に連れられて遊びに行ったのだが、帰宅が約束の時間を過ぎてしまった挙句、怪我をして帰ってきたことだった。
母に『どうして約束した時間までに帰ってこないの！？』とこっぴどく叱られ、強制的に学校は辞めさせられた。
学校なんてものがあるから私に要らない知識が付くと言った母は私に家庭教師をつけた。
私も最初は嫌で駄々を捏ねたが、母は帰りが遅かった私のことを相当心配したらしく、そんな母を思うと母のいうことに逆らえなかった。
それからは外に出たことは殆どない。
窮屈な生活に息苦しさを感じていないと言ったら嘘になる。けどあの時のことを引きずって、いつまでも母に意見を言えずにいるのだ。
そしてそのままここまできてしまった自分に自己嫌悪することも少なくなかった。
はぁ、と再び溜息をついて窓の外を眺める。
どこまでも澄み渡った青い空を鳥たちが縦横無尽に飛び回っていた。
「羨ましいなぁ...」
空を飛ぶ鳥はあんなにも自由なのに
私はまるで鳥籠の鳥みたいだ
誰かこの鳥籠から解き放ってくれないかな、なんてことを期待する自分が馬鹿らしく思えた。
.
ある日、いつものように朝食をとっていると父が食卓に居ないことに気付いた。
うちは朝食は家族全員でとる決まりがあり、誰かがいないというのは滅多にない。
疑問に思い、母に尋ねると「仕事じゃないかしら」と適当にあしらわれてしまった。
しかしその答えはどこか引っかかる。
おかしい
そもそもどんなに忙しくても朝食は家族三人で取るという決まりを作ったのは父だ。
それなのにいないということは外出中なんだろうか
何も告げずに外出に行くなんて珍しいな、と思いつつ食事を進める。
ただ、母が嘘をついたことが疑問に残った。
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