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彼女が笑う。まるで、その姿は芍薬いや牡丹…いや、百合の花のよう。目を奪われる。着物の柄に似合った抑え目の表情は俺を動かす動機としては十分なものだった。
そこからはコーヒーを淹れる練習を続け、研究を重ねた。幸か不幸か1つのものに没頭する事が得意な俺は、彼女が来てはコーヒーをふるい、それでもまだ飲めなさそうな彼女のためにまたコーヒーをふるう。その原動力は明らかに彼女から来ていたことは間違いなかった。
｢ごめんなさい、ショッピさん。｣
それは恐らく冬の終わりかけだっただろうか。新しい季節へと移行するであろう時だった気がする。控えめに空けられた扉の向こう側に彼女が立っている。何故かそこから先に入ってこようとはせず、俺が駆け寄ったと同時にその頭を深く、深く下げた。何故謝るのか、謝られるのか。意味も分からず狼狽える。
｢別に、茶道云々は関係なかったんです。ショッピさんが気になって、それで──｣
｢その前にこれ、飲んで貰えますか。｣
早口になる彼女の手を引きいつもの席に座らせ、カップを持上げる。ラテアートと称されるコーヒーの水面上に浮かぶハートの形。その中央に簡素に書かれた英字を見た彼女はたちまち目を大きく見開く。ことり、ゆっくり目の前に置かれたカップを見つめていた彼女はゆっくり顔を上げた。
｢あの、これ…｣
｢飲めないなら飲めないで構いません。でも良ければ貴方に…Aさんに飲んでもらいたいです。飲んで、もらえませんか。｣
震えた手がカップの持ち手に伸びる。恐る恐る、と言った雰囲気でカップを持ち上げた彼女はその縁に口を付ける。傾いたそれは彼女の細く、白い首を通過し、何度か骨の出っ張りが上がって、下がった。彼女好みに甘くしたコーヒーはきっと心身まで行き渡っている事だろう。俺は彼女に出来る限りの笑顔を向ける。
｢やっと、飲んでくれましたね。｣
｢ショッピさ──｣
｢もうええやろ。鬼ごっこはおしまい。｣
彼女が言葉を発する前に俺の体が彼女を包み込む。きっと、コーヒーの染み込んだ匂いが沢山するだろう。それでも良かった。彼女を失ってしまわないように、力強く抱きしめる。
まるで、それは不完全美。全てが完全ではなかった出会い。だからこそ儚い美しさはそこにある。
茶道の世界の一期一会とは正しくこの事。それは猫ですらも抗えない素敵な運命だった事だろう。
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瀉天 - 先輩後輩ってオレンジ？ (2020年6月21日 13時) (
レス) id: 55ffdc0025 (このIDを非表示/違反報告)
ゴミ箱 - めちゃめちゃ良かったです！沢山の作者さん、主催者さん、ありがとうございました！ (2020年5月18日 8時) (レス) id: 94cbebf757 (このIDを非表示/違反報告)
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