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｢苦手、というかなんというか…｣
｢でも、この間コーヒー飲まなかったやろ。｣
｢覚えてたんですか。｣
俺自身しまった、と思った。彼女に出会えた喜びから思わず言わないつもりだった言葉を口走ってしまった。たちまち形勢逆転、俺の表情を汲み取った彼女は此方を不信そうに見つめていた。はてさて、どう言葉を返したものか。そう考えあぐねていると向こうからマスターが顔を出す。それにいち早く反応した俺は｢どうぞ、ごゆっくり｣と述べ、足早に去る。だからこそ気づかなかった。彼女の耳がより一層赤くなっている事に。
結局その後、彼女は何度か来店していたもののコーヒーを飲まずに、サイドメニューらしきものを頼み帰る。それを繰り返して早4回目の来店を迎えた。然し、彼女の姿はいつもと違う。何故か、着物姿に身を包み扉を開いたのだ。入ってきた瞬間冷たい風と共に現れた彼女に一瞬寒さも忘れて息を呑む。案内する事すらも忘れてしまい、彼女がたじろぐ姿を見てからようやく動き出した。
｢いつもとは違って着物なんですね。｣
｢嗚呼、今日は茶道の稽古があって。｣
｢茶道やってるんですか。｣
｢まあ、趣味で嗜む程度ですけど…｣
｢中々出来へん事やろ。凄いと思いますよ。｣
｢そうですか。ありがとうございます…｣
｢もしかして、コーヒー飲まないのもお茶が理由だったり…？｣
｢…そう、ですね。昔から茶道しかしてなかったので、コーヒー飲んだ経験がなくて。｣
もう4度目ともなると俺と彼女は顔見知りと言ってもいいくらいの仲にはなっていた。それは恐らくこの店に余り人が来ないことも相乗効果となっているのだろう。最初は口数の少なかった彼女だったが、話していくうちに少しずつ心を開いてくれたようで世間話を出来るようになっていった。
それにしても大収穫だった。最初に予想していたとはいえ、それがまさか茶道絡みのものとは思っていなかった。マスターから茶道とコーヒーのドリップは似ていると聞いた事がある。どちらも日本発祥のもので、異なるように見えていて意外とその根底にある精神が一致しているらしい。
｢それなら俺が絶対Aさんにコーヒー飲ませてあげますね。｣
｢…え、本当ですか。｣
｢はい、絶対飲ませたくなるようなコーヒー作りますから。｣
｢…ふふ、はい。楽しみにしてますね。｣
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瀉天 - 先輩後輩ってオレンジ？ (2020年6月21日 13時) (
レス) id: 55ffdc0025 (このIDを非表示/違反報告)
ゴミ箱 - めちゃめちゃ良かったです！沢山の作者さん、主催者さん、ありがとうございました！ (2020年5月18日 8時) (レス) id: 94cbebf757 (このIDを非表示/違反報告)
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