見知らぬ場所 ページ4
。
遠いところで、誰かの声が聴こえる。
呆れ半分の懐かしい声だ。
私を揺さぶって起こそうとしている。
どうやら私は眠っているらしい。
その声から逃げようと、私は寝返った。
__否、寝返ろうとした。
。
『う”......っ、!?』
私は痛みにうめいた。
どこからともなく、身体が悲鳴を上げた。
危険信号を発して、ズキズキと激痛が走った。
意味がわからず、どうすればいいのか考えることもできず、痛みの感度が鈍化するのを待った。
この激痛のお陰で、私の睡眠欲は吹っ飛んだ。
今、私は疑問符で頭が破裂しそうだ。
見慣れない天井があって、大きな窓からは見慣れない街を見下ろす絶景が見え、朝日が差し込んでいる。
おまけに、近くのソファーには知らない青年が寝ていた。
柑子色の頭髪、高級そうな背広、外套は近くに放られている。
一般人でないことは明確だった。
ここで、私は自分自身に1つの問いを出題した。
見知らぬ街の、見知らぬ部屋で、見知らぬ青年(明らかに一般人ではない)が近くのソファーに寝ている、私はどうするべきか。
答えは簡単だ。
気付かれぬうちに逃亡する。
『(......逃げよう。)』
痛みに対抗して声が叫びたがったのを、必死で押し殺した。
自分にかけられた毛布を払い除け、自身の身体を見て 怪我の状態を検分した。
足は折れている。両方だ。歩けない。
片腕も折れている。肩から粉砕か。これはまずい。
下手に動かせば鋭利な骨折端が神経、血管などを傷付ける恐れがある。
腹...包帯で頑丈に固定されている。
肋骨が数本折れている、無理に動くと内臓を傷付けるかもしれない。
私は折れていない片腕に体重を預け、床を這いずった。
古い映画の、捕虜が脱出するシーンが頭に浮かび、端から見れば情けない状態だろう。
匍匐前進で進行は遅く、悲愴的だ。
最初こそ 目を覚まさないか、青年を気にしていたが、リビングを出ると もう時間との戦いだった。
いちいち後ろを確認する暇など無い。
玄関はすぐそこ、進行を阻害する障害物もない。
このまま気付かれずに逃げ出すことは可能___、
「どこに行くつもりだ。止まれ。」
『...っ、』
......なはずだった。
背後から地を這う低温が聞こえた。
命の危機を覚え、嫌な汗が額を伝った。
16歳の私は 咽び泣き、許しを乞うために平伏し、失禁してもおかしくなかった。
同い年の一般人なら、そうなっていただろう。
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