中原中也は夢を見ない ページ2
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「......は?」
喉の奥から感情が漏れた。
言語化しようもできない感情は、疑問と共に浮かんでは消える。
俺は、自分が幻覚を見ているのだと思った。
徹夜の疲労から、脳がバグを起こしたのだと。
視線を外し、どこか遠くを見た。
数少ない自動車が走っているのがわかる。
交通規則を守り、信号が青に変わったのでトラックが進んだ。
俺は視線を戻した。
そこには相変わらず“それ”がある。
自分が住む高級住宅、その一室の扉の前。
そこに血まみれの死体が転がっていた。
夜明けの時間帯、辺りは静かだ。
人の気配は無く、騒音も無く、不気味なほどに静まり返っている。
もう一度、死体を見た。
脳内に悪夢が再生されたような気がした。
死体というのはどのような場合であっても、存在が奇妙に誇張される。死体を見慣れたマフィアであってもそうだ。
ふと、俺はあることに気付いた。
死体の胸が、わずかだが上下している。
息がある、生きていることを意味していた。
俺は死体を観察した。
色素の薄い頭髪に細身の体躯...女だ。歳は15といったところか、少女と言ってもいい。
白いブラウスに淡青色のロング丈スカート、その上から白衣を纏っていた。
血で染まった白衣は医者を思い浮かばせる。
そして、頭と右腕 腹に巻かれた包帯。
ここで、俺は自分自身に1つの問いを出題した。
俺はこの ほぼ死体とも言える少女をどうするべきか。
答えは簡単だ。部下を呼び、処理させる。
俺 中原中也はポートマフィアの五代幹部であり、自宅を知られているとなると、それはマフィアの情報が漏洩していることを意味する。
迅速な対応が必要だ。
意を決した俺は行動を開始した。
血まみれの少女の両脇を抱えて持ち上げた。
家の中へ運びいれ、リビングの床に横たえる。
まずは傷の様子を検分した。
だが俺に医学などの知識はないので、適切な処置の1つもわからない。
ただ一通り見てわかったことは、傷が深く多く、出血量も尋常ではなかったことだ。
打撲に骨折 裂傷 切り傷 擦り傷 銃創、まるで怪我の図鑑を見ているようだった。
手当てをするため血まみれの白衣を脱がして、ごみ袋の中へいれた。
骨折している箇所、肩や肋骨は固定されていたが、足の骨折は固定されていなかったので固定し、その他の傷口を絆創膏や包帯で保護した。
こんな処置だと悪化するかもしれないが、やれることはやった。
「...マフィアが何してんだか。」
全く、その通りだ。
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