504 ページ5
わかりやすい致命傷なんてものはない、
地下牢だから声も響くが、地下牢に放り込まれてから四時間、悲痛な叫び声は何ひとつない。
でも逆らってはいけない何かがAの中にあった。
故に、大して血の匂いがしないこの空間は、何かが異常だった。
ゴクリと息を飲んだナルシッサは必死に去勢を張るように、顎を上げた。
「A、もう結構です。
ここから出て行きなさい。」
「何故です？
私は主人の命じられるままに拷問をしているのに。」
「何が拷問ですか、叫び声ひとつあげない、傷も大してない、彼らは元気そのものです。
もう結構。
外に出なさい、貴方はここには必要ない。」
ナルシッサも言いようのない何かを感じていたのだろう、その原因がAにあることも。
一刻も早く出て行け、そんな言葉が分かりやすく伝わる中、Aはにこりと笑った。
「おやまあ、何かをお忘れではありませんか？」
「な、何を忘れていると言うのです…」
「ここは誰のものです？」
「はっ、ここは私の夫のものです。」
「残念、違いますよ、ナルシッサ様。
ここは、我が君のものですよ。」
何を分かり切っていることを。
そんな心の言葉がついてきそうなAの笑みに、ナルシッサは顔から最後の色が取れたように、蒼白だった。
「貴方、何が目的なの？
ドラコに取り入って、お友達を罠にはめて、こんなこと、こんなことって。」
両手を顔に当て、ゆっくりとぐしゃりと何かを握り潰すように埋めいたナルシッサは、自分の顔の皮膚に両の手の爪を鋭く立てた。
なるほど、人間は理解の出来ない恐怖を目の前にすると絶望をするようだ。
Aは興味がなさそうに、半目で睨みつけてから、改めてこの静かな拷問を再開しようとした時だった。
「待て。」
低く響いた声が辺りに響く。
振り返った先には、3人にとっては絶望、ナルシッサにとっては恐怖、そしてAのとっては求めた人そのもの。
「…お待ち申し上げていましたよ、我が君。」
ゆっくりとその言葉をささやき、首を垂れた彼女は恭しく跪いた。
相手に敬意を払うように、柔らかく腰を折った旧友を見つめるハリー。
彼の中で何かが崩れた。
＿＿あなたの目で私を見定めて。
懇願した少女とは比べ物にならないくらい、全く違う姿がそこにはあった。
気高く
美しく
孤高な彼女は、
大空に向かって飛び上がることはない。
従うようにと、差し出された腕にゆっくりと羽を休めた彼女が、ハリーには怪物に見えていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 144人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハリーポッター」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イライザ(プロフ) - ルリさん» お返事遅れてすみませんでした、ありがとうございます｡色々な作品の中でも印象にの子たのが印象に残ったのが幸いです、不定期ではありますが新しく物語を始めました｡またそちらでもお会いできたら幸いです｡ (2021年3月15日 2時) (
レス) id: d70a88eee0 (このIDを非表示/違反報告)
ルリ(プロフ) - 初めて感動しました。とても素晴らしい作品だと思います。言葉では表せないです。色々作品を見てきましたが、自分の心にすごく刺さって、感情移入しました。もっとイライザさんの作品を見てみたいと思いました。素晴らしい作品を読ませて頂きありがとうございました (2020年12月16日 15時) (レス) id: f2a767728c (このIDを非表示/違反報告)
イライザ(プロフ) - 鈴猫さん» お返事が遅れてすみません、ありがとうございます、ここまで長く続けて来られたことに感謝です。本当にありがとうございました！！ (2020年7月20日 23時) (レス) id: 2c5d1feb72 (このIDを非表示/違反報告)
鈴猫(プロフ) - すごく面白かったです。主人公の最後は思わず涙が流れました。どんな最後にしろhappyかbadなのか、それは人それぞれなのですが凄く良かったです！素敵な作品をありがとうございました！ (2020年4月17日 6時) (レス) id: c2b147e245 (このIDを非表示/違反報告)
イライザ(プロフ) - ベルモットさん» これで書かないのはちょっとなあと思いながら、書いていました。正直後悔はしていません。でも泣いたという言葉をもらえただけで、自分の中で気になっていたモヤモヤが貼れました、ありがとうございます。if話では精一杯幸せに書くのでご覧ください。 (2020年4月14日 23時) (レス) id: 2c5d1feb72 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イライザ | 作者ホームページ：
作成日時：2019年11月22日 13時
