天才と凡人�� ページ18
Aside
A「た、ただいま〜？」
悟さんのおかげなのか、最近家族同士の距離が近くなったと感じました。
少し前まではおじいちゃんにも敬語でしたし私...
疑問形なのは許していただきたい。
「帰ったのか」
ですが、どうしても敬語も抜けなければ距離を取ってしまうのがお父さん。
A「今週レースの子の追い切りに帰っただけで、すぐ帰ります...」
気まずさに目をそらせば「ついてこい」と言われ、連れられて来たのはデビューを控えた2歳馬達の元。
「お前は、なんのために騎手になった？目標は？夢は？憧れは？何がしたいんだ」
唐突な質問攻めに困惑した。
怒られてる。
そういう感覚だった。
A「騎手になった理由は、私を藤宮Aとしてじゃなくて、Aとして見てくれる人に会いたかったからです。夢は、引退馬支援の事業を大きくして、処分される子を減らしたいです。だから目標は、お父さん以上に稼げる騎手になることです」
色々考えた中で、ずっと私の奥底にあったもの。
騎手にならなければ自分が乗った馬が処分されるなんて想像もできなかったし、しなかった。
騎手になって、昔よりももっとずっと馬が大好きになった。
稼げる稼げないで話すのは命を馬鹿にしていると言われるかもしれない。
でも、お金がないと"命"が買えない世界だから。
もっと有名になって、もっと上手く馬に乗れるようになって、沢山の人に引退馬の現状を受け止めてほしい。
1円でも、10円でもいい。
寄付してもらいたい。
お祭りで馬を使いたいから借りたい。
いくらで借りられますか？
大切に馬を扱ってくれるなら、馬たちが生きるためのお金を稼げるなら、引退馬支援なんて綺麗事掲げて金儲けしてるって言われたって構わない。
「そうか」
お父さんの返事はそっけなかった。
でも、
「俺より稼ぐってことは、俺より馬に乗って、俺より勝つって事だ。無理だろうな。俺の"夢"はお前には負けない」
真っ直ぐ私を見る目は闘志に満ちていた。
「私も、負けませんから」
ハッキリ言い切れば、ヘニャリと笑ったお父さん。
初めて見た、こんなお父さんの顔...
「俺の夢は、馬に乗れる限り何歳だって乗り続ける事だ。1秒だって長くターフにいたい。
お父さんって、こんな人だったんだ...
そう話すきっかけとなったのも、きっと悟さんなのかもしれない。
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作者名：伊織 凛 | 作成日時：2023年6月18日 15時
