五条先生のマッチングアプリで知り合った彼女 (ページ16)

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天才と凡人③ ページ16

和彦side

暫くしてドンの競走中止と櫻井百合落馬がアナウンスされた。
馬は自力で起き上がれず、落馬した百合はピクリとも動かない。

数日、暫くして百合は脊髄を損傷して、復帰は無理だという話を聞いた。
そしてドンは、安楽死の決定が下ったが百合の師匠がなんとか治療してあげてほしいと関係者に頼んでいるがお金が無くて難しいということも聞いた。

「お願いします。俺が立派な騎手になったら、何十倍でも何百倍にしてでも返します。お金を貸してください」

それを聞いて、競馬一筋で俺になんて興味のなかった親父に土下座してお金を貸してくれと頼んだ。

「ったくおめぇわ！おせぇ！！」

これが、初めて親父に殴られた日になった。

俺と百合が競馬学校時代からずっとライバルだという話は関係者から耳に入ってたらしくて、百合の手術費や一生かかるであろうリハビリなどの費用。
成功する可能性は低いけどゼロじゃないドンの手術費も全部親父が出してくれる事になった。

「貸した額の10倍は稼げる騎手になれ。じゃなきゃ貸さねぇがな」

俺の天狗ぶりも耳に入っていたらしく、軽蔑的な目とともにそうも声をかけられた。

それから必死で、今まで失礼な態度を取った関係者に頭を下げて、追い切り調教にも何時間だって、何頭にだって乗った。
毎日、体が痛みや疲労を感じなくなるほど働いた。

そんな時にたまたま寄った本屋で目に止まった。

ー翼をもがれた才能。地に落ちた天才ー

悪意しか感じられない雑誌の表紙にはそんな言葉が。
今、そんなドラマだかなんだかがやってるのか。

信じられなくて、そう思いたくて、ページをめくった。
そこにあったのは百合の数々のレース記事と共に、「お疲れ様」の文字。

商品にも関わらず怒りのあまり破いた。
もちろん弁償はした。

どうしようもなく百合に会いたかった。
走れる、まだ乗れる！
ドンは今、手術は成功して必死にリハビリしてるのに、お前が乗れないなんて！！

なんとか百合のいる病院を探して病室の前まで来れば看護師の声が耳に入った。

「普通の生活に戻ることすら困難よね...」

「初の女性騎手でしたっけ？」

「私なら"女性が"命がけで馬に乗ってるの見るのはゾッとしちゃう」

そんな会話に苛立ちを感じて勢いでドアをノックした。

ゴクリと生唾を飲み込めば「どうぞ」といつもと変わりない無愛想な声が聞こえた。